チョコレートで覆ったアイスバーは、噛んだときにパリッと割れるものが多くあります。あの手応えが、この種の菓子の持ち味とされてきました。

ところが森永乳業のパルムは、逆のことを狙っています。公式の説明では「一緒にとけていく」ことが特徴として挙げられています。

2005年発売

パルムの発売は2005年です。森永乳業の公式サイトに記されています。

開発の狙いも書かれています。「『大人が満足できる、シンプルで上質なアイスクリーム』という新たな価値を目指して」開発された商品です。

「大人」と「シンプル」という二語が入っています。子ども向けの賑やかな商品ではなく、素材の少ない上質なものを目指したことになります。この二語は、あとで見るように構造の説明にもなっています。

「一緒にとけていく」という特徴

構造については、こう説明されています。「アイスクリーム部分とコーティングチョコレート」で構成され、「アイスとコーティングチョコが一緒にとけていく」点が特徴だとされています。

ここが重要です。溶ける速さを揃えているということです。

チョコレートのコーティングは、冷たいときに硬く、口の中で溶けます。アイスクリームも口の中で溶けます。その二つが同じ速さで消えていけば、境目を感じません。

逆に速さが違えば、どちらかが先に消えて口の中に残ります。チョコレートの膜だけが後に残る感覚は、この種の菓子ではしばしば起こります。

パリッと割れる設計との違い

同じ「チョコレートで覆ったアイス」でも、狙いが逆の商品があります。

チョコアイスのコーティングはなぜパリッと割れるのかでは、冷たい状態で硬く割れ、口の中で溶けるという温度の設計を扱いました。ブラックモンブランはさらに外側にクッキークランチをまぶして、手応えを強めています。

パリッと割れる設計 一緒にとける設計
噛んだ瞬間 硬い膜が割れる 境目が少ない
狙っている体験 手応えと食感の段差 なめらかさの連続
代表的な商品 チョコアイス、ブラックモンブラン パルム

どちらが良いという話ではありません。段差を作るか、消すか。同じ素材で正反対の答えが出せるということです。

そして狙いが決まれば、ほかの要素も従います。段差を作る商品は外側に固いものをまぶし、消す商品は余計なものを足しません。パルムの「シンプル」という言葉は、味の説明というより構造の説明として読めます。

なぜ速さを揃えられるのか

溶ける速さは、油脂の性質で変わります。

チョコレートの油脂であるココアバターは、融点が体温より少し低い位置にあります。その性質はカカオマス・ココアバター・ココアパウダーの違いとは?とチョコレートが溶ける温度は何度?にまとめました。

コーティングに使う油脂を選べば、溶け始める温度と溶けきる速さを動かせます。かけて固まるか、流れたままかは油脂の選び方で決まるという点はチョコレートソースとシロップの違いでも扱いました。

一方でアイスクリームの側も、乳脂肪の量や空気の含ませ方で口溶けが変わります。両側を調整できるので、速さを合わせるという設計が成立します。

細長い形という条件

この商品は細長いバーの形をしています。これも溶け方に関わります。

細い形は表面積が大きく中身が少ないため、外側のコーティングが口の中で占める割合が高くなります。膜の存在感が出やすい形だということです。

その条件で「境目を感じさせない」ことを狙うのは、むしろ難しい方向になります。形の不利を設計で埋めていると見ることもできます。

手に持つ棒が付いていることも効きます。手で触れないので、持っているあいだに表面が溶けません。板状のチョコレートが指で溶けてしまう問題はチョコレートのラッピングでも扱いました。棒は食べやすさのためだけでなく、温度を守る役割も担っています。

逆に細長い形が有利に働く菓子もあります。チョコバットは細い棒状にすることで、噛みちぎる手応えを出していました。同じ形が、狙いによって利点にも制約にもなります。

食べ方で体験が変わる

設計が「一緒にとける」方向なら、食べ方もそれに合わせたほうが分かります。

取り出してすぐに食べないこと。冷凍庫から出した直後はコーティングが硬く、アイスも締まっています。この状態では境目が出ます。少し置いてから食べると、狙いどおりの溶け方になります。

噛み砕かずに、舌で溶かすこと。噛めばコーティングは割れます。割れた破片は口の中で別のものとして残ります。溶かしていけば、境目のない状態を確かめられます。

一粒ずつ味わうチョコレートでも同じ考え方が使われます。「ボンボンショコラ」とは?では、室温に戻してから舌で溶かす食べ方を扱いました。溶かして味わうという作法は、冷たい菓子にも当てはまります。

逆に手応えを楽しみたいなら、硬いうちに噛むのが正解です。同じ商品で二通りの体験ができるということになります。

よくある質問

Q. コーティングはチョコレートですか。 森永乳業の説明では「コーティングチョコレート」とされています。アイス用のコーティングは、冷たい状態と口の中の両方で性質が成り立つよう油脂が選ばれます。

Q. なぜパリッと割れないのですか。 割れないことを狙った設計だからです。公式は「アイスとコーティングチョコが一緒にとけていく」点を特徴として挙げています。パリッと割れる設計の商品はチョコアイスのコーティングはなぜパリッと割れるのかで扱いました。

Q. 溶けかけたものを再凍結しても大丈夫ですか。 食感は戻りません。アイスクリームは一度溶けると氷の結晶が粗くなり、コーティングも元の状態に戻りません。溶けたチョコレートが固まり直したときに起きる変化は「ブルーム現象」とは?にまとめました。

大人向けという位置づけ

「大人が満足できる」という言葉は、価格と売り場にも関わります。

アイスの棚には、安価な氷菓から高価格帯のものまで並びます。素材を絞って質を上げる方向は、必然的に価格が上がります。

同じ考え方は板チョコにも見られます。カカオの産地を絞って個性を出す商品は「シングルオリジン」とは?で扱いました。種類を減らして質を上げるという方向は、菓子の分野をまたいで共通します。

冷たいチョコレート菓子の全体像は冷やして食べるチョコレートにまとめました。

味の展開が続いている

公式の発表を見ると、期間限定や数量限定の味が繰り返し出されています。ジェラート仕立てのもの、果物を合わせたもの、芋を使ったものなど、幅があります。

展開しやすいのは、アイスクリーム部分を替えればよいからです。コーティングと形という骨格は動かさず、中身で味を決められます。

ただし「一緒にとけていく」という特徴を保つには、中身を替えるたびに速さの釣り合いを取り直す必要があるはずです。骨格が決まっているぶん、調整する場所もはっきりしていることになります。

境目を消すという考え方

まとめると、パルムの設計は段差を作らない方向にあります。

2005年に「大人が満足できる、シンプルで上質なアイスクリーム」として生まれ、アイスとコーティングが一緒にとけていくことを特徴に据えた。チョコレートの膜を手応えのためではなく、なめらかさの一部として使っているわけです。

次に食べるときは、口の中で何が最後に残るかを意識してみてください。何も残らなければ、設計どおりということになります。

参考文献

※商品のラインナップや仕様は変更されることがあります。最新の情報はメーカーの公式サイトでご確認ください。