チョコアイスにかじりついたときの、あの音。表面のチョコレートが薄く割れて、下から冷たいアイスが出てくる感触は、この菓子の一番の見せ場です。
ここで一度、素朴な疑問を置いてみます。板チョコを冷凍庫で凍らせて、同じことが起きるでしょうか。
答えは、起きません。凍らせた板チョコは硬すぎて、割れるというより砕けます。しかも口の中でなかなか溶けず、後半は蝋のような塊が残ります。同じチョコレートなのに、なぜこれほど違うのか。チョコアイスのコーティングは、まったく別の設計で作られているからです。
冷たい口の中では、普通のチョコは溶けない
出発点は温度です。
一般的なチョコレートに含まれるココアバターは、体温に近い温度で溶けるように性質が決まっています。だから常温では固体を保ち、口に入れた瞬間にすっと液体へ変わります。この設計が、板チョコのなめらかな口溶けを支えています。
ところが、アイスを食べるときの口の中は普段と条件が違います。マイナス20度前後まで冷やされたものを入れるため、口内の温度が下がるのです。ここに体温で溶ける設計のチョコレートを持ち込むと、溶けきりません。
つまり、板チョコの美点である「体温で溶ける」性質が、アイスの上では欠点に変わります。冷えた口の中でも溶けてくれるものが必要になる。チョコアイスのコーティングは、この一点を解くために作られています。
ココアバターの温度特性についてはチョコレートが溶ける温度は何度?でも詳しく扱っています。
答えは「もっと低い温度で溶ける油脂」
そこで使われるのが、ココアバターの代わりになる植物油脂です。ヤシ油やパーム核油といった、融点の低い油脂が選ばれます。
溶ける温度を下げておけば、冷えた口の中でもきちんと溶けます。同時にこれらの油脂には、製造上の利点もあります。
| ココアバター | ヤシ油・パーム核油 | |
|---|---|---|
| 溶ける温度 | 体温付近 | より低く設定できる |
| 結晶の形 | 複数ある | 1種類 |
| テンパリング | 必要 | 不要 |
| 冷たいものへの適性 | 溶け残りやすい | 冷えた口でも溶ける |
結晶の形が1種類しかないという性質が効いています。ココアバターは複数の結晶形をとるため、望ましい形に揃えるテンパリングという温度調整の工程が欠かせません。これを誤ると、白く粉をふいたような状態になります。
一方の植物油脂は結晶形がひとつなので、溶かしてかけるだけで安定して固まります。冷たいアイスに触れた瞬間に急速に固まり、薄い殻ができる。あのパリッとした層は、この性質から生まれています。
テンパリングという工程そのものについてはチョコレートができるまでの12工程で図解しています。
だから「準チョコレート」と書いてある
ここまで読むと、パッケージの表示にも説明がつきます。
チョコアイスの表示欄を見ると、「準チョコレート」や「チョコレート菓子」と書かれていることがあります。日本の規約では、チョコレートを名乗るにはカカオ分やココアバターの量に基準があり、植物油脂を主体にした被覆はこの基準を下回るためです。
ここで誤解してほしくないのは、これが品質の劣化を意味しないことです。冷たいものにかけるという用途では、体温で溶けるココアバターより低融点の油脂のほうが理にかなっています。用途に合わせた選択の結果であって、手抜きではありません。
区分の考え方は「チョコレート」と「準チョコレート」の違いにまとめています。
厚みで食感が決まる
同じ仕組みでも、被覆の厚みで印象は変わります。
薄くかけたものは、噛んだ瞬間に一気に割れて、すぐアイスと混ざります。厚めのものは割れたあともチョコレートの層が口に残り、アイスと別々に味わう時間が生まれます。
ナッツやクッキーを一緒にまぶしたタイプは、さらに噛む段階が増えます。チョコレートの割れる音に、別の食感が重なる設計です。厚みと混ぜ物という二つの変数だけで、これだけの幅が作られています。
板チョコを割ったときの手応えとの違いを意識して食べ比べると、設計の差がはっきり分かります。
コーティングの役割は、形によって違う
同じチョコアイスでも、アイスの形状によってコーティングに求められる仕事が変わります。
バータイプでは、チョコレートは外側を覆う殻です。手で持って食べるため、溶けたアイスが垂れるのを一定時間押さえる役目も担っています。薄いようでいて、構造材でもあるわけです。
モナカやサンドの場合、チョコレートは表面ではなく内側に塗られていることがあります。これは食感のためではなく、アイスの水分が皮に移るのを防ぐためです。油脂の層が壁になり、パリッとした皮の状態を保ちます。同じチョコレートが、まったく別の目的で使われている例です。
カップタイプでは、上面だけに薄くかけられることが多く、この場合は最初のひと口の印象を作る役割に寄っています。
「チョコがかかっている」という一言でまとめられがちですが、覆う・遮る・演出するという、少なくとも三つの仕事があります。
白いコーティングも同じ原理か
ホワイトチョコレートやいちご味の色つきコーティングも、考え方は同じです。
これらはカカオマスを使わないため色がつきません。ホワイトチョコレートがカカオマス不使用である理由はカカオマス・ココアバター・ココアパウダーの違いで扱っていますが、色の主役がいないぶん、油脂と乳成分と糖分の設計がそのまま味に出ます。
そこに低融点の植物油脂を組み合わせる点は、茶色いコーティングと変わりません。冷えた口の中で溶けること、かけた瞬間に固まること。求められる条件が同じである以上、解き方も同じになります。
違うのは、甘さの感じ方です。カカオの苦みという受け皿がないため、白いコーティングは甘さが前に出やすくなります。中のアイスをさっぱりした味に振ってある商品が多いのは、この釣り合いを取るためだと考えられます。
霜がついたアイスが味気ないのはなぜか
コーティングの話とあわせて知っておくと役立つのが、霜です。
冷凍庫で長く置いたアイスの表面に、白い粒がつくことがあります。あれはアイスから水分が抜けて再び凍ったもので、一度溶けかけて再凍結した痕跡でもあります。
この状態になると、なめらかだった氷の粒が粗くなり、舌ざわりが落ちます。チョコレートのコーティングにも影響が出ます。下のアイスとの間にすき間ができて、噛んだときに一体感が失われるのです。
対策は単純で、買ったら早めに食べること、冷凍庫の扉の開け閉めを減らすことに尽きます。とくに扉のポケットは温度が変わりやすく、アイスの置き場所としては不利です。奥のほうに入れておくだけでも状態は変わります。
家で試すと、仕組みが腑に落ちる
この理屈は、家庭でも確かめられます。市販のチョコレートに溶かしたココナッツオイルを混ぜてアイスにかけると、近いものができます。
やってみると分かるのは、チョコレートだけでかけた場合との差です。チョコレート単体だと固まるのに時間がかかり、口に入れても溶けにくい塊になります。油脂を足したほうは、かけた側から固まり、口の中でも早く溶けます。
ここで起きているのが、まさに融点を下げるという操作です。理屈を読むより、一度自分の手で違いを作ってみるほうが早く納得できます。
溶かす作業の基本はチョコレートの溶かし方を参照してください。加熱しすぎると分離するので、温度は控えめに扱ってください。
音が鳴るのは、偶然ではない
チョコアイスを噛んだときのあの感触は、たまたま生まれたものではありません。冷えた口の中でも溶けること、かけた瞬間に固まること、薄い層を保てること。この三つを同時に満たす油脂が選ばれた結果として現れています。
パッケージに「準チョコレート」と書かれているのを見て、少し損をした気分になったことがあるかもしれません。けれど中身を知れば、あれは冷たいものの上でおいしくあるために選ばれた設計だと分かります。
次に食べるとき、割れる音に少しだけ注意を向けてみてください。あの音は、温度をめぐる工夫の結果です。
参考文献
※商品によって配合や表示は異なります。個別の商品については各メーカーの表示をご確認ください。
