アイスクリームやパンケーキにかける、あの茶色い液体。商品によって「チョコレートソース」と書かれていたり、「チョコレートシロップ」と書かれていたりします。
同じものだと思っている人は多いはずです。けれど原材料を並べてみると、入っているものがはっきり違います。そして違いは一点に集約されます。油脂があるかどうかです。
シロップの原材料には、油脂がない
まず市販のチョコレートシロップを見てみます。
森永製菓のチョコレートシロップの原材料は、水あめ、砂糖、ぶどう糖果糖液糖、ココアパウダー、食塩、増粘多糖類、香料です。
ここで注目したいのは、入っていないもののほうです。カカオマスもココアバターも入っていません。カカオ由来の成分として使われているのは、ココアパウダーだけです。
ココアパウダーは、カカオマスから油脂を搾ったあとに残る粉です。つまりシロップは、カカオから油脂を抜いた部分だけを使っていることになります。それぞれの原料の関係はカカオマス・ココアバター・ココアパウダーの違いとは?にまとめました。
百科事典的な定義でも、チョコレート・シロップは「チョコレート風味の甘い調味料」とされ、基本の成分はココアパウダー、砂糖、水と説明されています。チョコレートそのものではなく、チョコレート風味の液体という位置づけです。
一方のソースには、チョコレートが入る
家庭でチョコレートソースを作る場合、材料はごく単純です。チョコレートと、牛乳または生クリーム。溶かして混ぜるだけで出来上がります。
この場合、チョコレートに含まれるココアバターがそのまま入ります。乳製品の脂肪も加わります。シロップとは違い、油脂を含んだ液体になるわけです。
| チョコレートシロップ | チョコレートソース(手作り) | |
|---|---|---|
| カカオ由来の成分 | ココアパウダー | チョコレート(カカオマスとココアバター) |
| 油脂 | ほとんど入らない | 含まれる |
| とろみのもと | 糖分と増粘多糖類 | 油脂と乳成分 |
| 冷えたとき | さらっとしたまま | かたくなる |
なお、市販品の名称は厳密に決まっているわけではありません。「ソース」と書かれていても油脂をあまり含まないものもあります。名前より原材料表示を見るほうが確実です。
だから、シロップは冷えても固まらない
この違いは、使ったときの挙動に直結します。
シロップが冷たい飲み物や冷えたアイスにかけても固まらないのは、固まる成分が入っていないからです。糖分と水が主体なので、温度が下がっても粘りが少し増すだけで、さらっとした状態が続きます。
太い口からたっぷりかけることも、細い口で線を描くこともできる。森永製菓も自社の商品をそう説明しています。冷たいものの上で形を保たないという性質が、かえって扱いやすさになっています。
対して、油脂を含むソースは冷えるとかたくなります。ココアバターは25度あたりから溶け始め、32〜33度付近でほぼ完全に溶ける性質を持っています。裏返せば、それより低い温度では固まるということです。
かけると固まるタイプは、油脂を足している
アイスクリームにかけると数秒でパリッと固まる商品があります。あれは、この性質を意図的に強めたものです。
使われているのはココナッツオイルなどの油脂です。ココナッツオイルに含まれる飽和脂肪酸は、分子が短くまっすぐな形をしているため、低温になると分子同士がくっつきやすく、固まりやすいという性質があります。
温かい状態でかけると、マイナスの温度に冷えたアイスに触れた瞬間に急激に冷やされ、殻のように固まります。冷たいものの上でだけ起きる現象です。
同じ考え方は工業製品にも使われています。アイスバーのコーティングが冷たい口の中でも溶けるよう設計されている話は、チョコアイスのコーティングはなぜパリッと割れるのかで扱いました。かけると固まるソースは、あれを家庭で再現できる形にしたものだと言えます。
とろみは、何で作られているか
同じ「とろみ」でも、何によって生まれているかが違います。
市販のシロップの原材料には増粘多糖類が入っています。水に溶かすととろみを出す成分で、油脂を使わずに粘りをつけるために加えられています。加えて水あめや糖類そのものにも粘りがあります。
一方、チョコレートを溶かして作るソースのとろみは、油脂と乳成分から来ています。冷えれば固くなり、温めればゆるくなる。温度によって状態が動きます。
この違いは、時間がたったときに表れます。シロップは冷蔵庫に入れてもさらっとしたままですが、油脂を含むソースは冷やすとかたまり、そのままでは注げなくなります。とろみの出どころが違えば、扱い方も変わるわけです。
固まったソースは、温め直せる
油脂で固まったソースは、温めればまた液体に戻ります。
これはココアバターの性質そのものです。25度あたりから溶け始め、32〜33度付近でほぼ完全に溶ける。冷やして固め、温めて戻すという往復ができます。
ただし、温め直すときも高温は禁物です。急に熱を加えると油脂が分離し、ざらついた状態になります。湯煎や、短い時間ずつの加熱で、様子を見ながら戻すのが安全です。
分離してしまった場合は、温かい牛乳や生クリームを少しずつ加えながら混ぜると、まとまることがあります。水分を足して乳化の状態を作り直す、という考え方です。
なお、一度固めて温め直すことを繰り返すと風味は落ちていきます。使う分だけ作るか、作り置きなら小分けにしておくほうが確実です。保存の考え方はチョコレートの正しい保存方法も参考になります。
映画の血糊にも使われてきた
余談ですが、チョコレート・シロップには食用以外の使い道も知られています。映画製作で血糊として用いられる場合があるとされています。
粘りがあり、垂れ方が自然で、色が濃い。白黒映画の時代には、赤い液体よりもかえって本物らしく写ったといわれます。食べても害がないため、俳優の口元に使っても問題になりません。
油脂を含まず、糖分と水でできているからこそ、扱いやすかったとも考えられます。性質を知っていると、意外な用途にもつながるという一例です。
使い分けの目安
最後に、どちらを選ぶかの目安を整理します。
飲み物に混ぜるなら、シロップです。油脂が少ないぶん液体になじみやすく、冷たい牛乳に入れても分離しにくくなります。
かけて見せるなら、ソースです。とろみがあるぶん形が残り、皿の上に線を描いても流れにくくなります。
アイスにかけてパリッとさせたいなら、固まるタイプを選びます。この場合は、かける前に温めて液体に戻す必要があります。
自分で作る場合、チョコレートを溶かす作業が出てきます。加熱しすぎると分離するので、手順はチョコレートの溶かし方を参考にしてください。牛乳の量を増やせばさらっとし、減らせばかたくなります。油脂と水分の比率が、そのままとろみになると考えると調整しやすくなります。
同じ茶色い液体に見えても、中身は別のものです。次に選ぶときは、裏の原材料表示を一度見てみてください。
どちらが上等という話ではありません。飲み物に混ぜたいのか、皿の上で形を見せたいのか、冷たいものの上で固めたいのか。目的が決まれば、選ぶべきものはおのずと決まります。原材料表示は、その判断を助けるために書かれています。
売り場では似た見た目の商品が並んでいますが、裏を返せば数行で違いが分かります。名前ではなく中身で選べるようになると、失敗が減ります。
参考文献
※商品の原材料や仕様は変更されることがあります。最新の情報は各メーカーの公式サイトでご確認ください。
