チョコレートプリンのレシピを探すと、ゼラチンを使わないものがいくつも見つかります。混ぜて冷やすだけ、と書かれていることもあります。

普通のプリンは、卵を加熱して固めるか、ゼラチンで固めます。どちらも使わずに固まるのは不思議に思えますが、理由ははっきりしています。チョコレートそのものが、固まる材料だからです。

プリンを固める三つの方法

まず、プリンがどうやって固まっているのかを整理します。方法は大きく三つあります。

ひとつめは卵です。卵のたんぱく質は加熱すると固まります。蒸したり焼いたりして作る昔ながらのプリンは、この性質を使っています。

ふたつめはゼラチンです。温めて溶かし、冷やすと網の目のような構造を作って全体を固めます。なめらかな口当たりのプリンに多く使われます。

そして三つめが油脂です。常温では液体でも、冷やすと固まる油脂があります。チョコレートプリンがゼラチンなしで固まるのは、この方法によるものです。

固め方 何が固まるのか 温度との関係
卵 たんぱく質 加熱すると固まる
ゼラチン 網目状の構造 冷やすと固まり、温めると戻る
油脂(チョコレート) ココアバターの結晶 冷やすと固まり、温めると溶ける

卵だけが「加熱で固まる」側にいて、残りの二つは「冷やして固める」側にいます。チョコレートを使う方法は、ゼラチンと同じ向きの仕組みだと考えると分かりやすくなります。

チョコレートは「食べる結晶」

では、チョコレートの何が固まっているのでしょうか。答えはココアバターです。

ココアバターは、カカオ豆に含まれている油脂です。カカオニブには一般的に50〜57%程度、標準的には約55%のココアバターが含まれています。カカオ豆の半分以上が油脂ということになります。

物理学の立場からは、チョコレートはこう説明されています。固体脂食品であり、ココアバターという油脂に、直径20マイクロメートル以下の砂糖やカカオマス、乳粉末などが分散した固体コロイドである、と。そして端的には、ココアバターが低温で結晶化したいわゆる「食べる結晶」だと表現されています。

つまり板チョコが固体でいられるのは、砂糖やカカオが固いからではありません。油脂が結晶になって全体を支えているからです。

温めた牛乳や生クリームにチョコレートを溶かし、冷やす。このとき起きているのは、いったん溶けたココアバターがもう一度結晶に戻る、という現象です。ゼラチンを入れていなくても固まるのは、そのためです。

チョコレートと生クリームを合わせた菓子の代表であるガナッシュも、同じ原理で固まります。配合の考え方は「ガナッシュ」とは?生チョコとの違いを解説にまとめました。

33.8度という融点

ココアバターには、はっきりした数字があります。融点は産地によって多少の差があるものの、一般的には33.8度とされています。

さらに、溶け方にも特徴があります。25度くらいから急速に溶け始め、32〜33度付近でほぼ完全に溶ける。狭い温度の幅で一気に状態が変わります。

温度帯 ココアバターの状態
冷蔵庫の中(およそ5〜10度) しっかり固まっている
室温(20度前後) 固体を保っている
25度あたり 急速に溶け始める
32〜33度 ほぼ完全に溶ける

この性質が、チョコレートの口溶けの良さにつながっています。人の体温は36度前後ですから、口に入れれば確実に溶ける。一方で、夏の室温では溶けかけるということでもあります。

だから、冷蔵庫から出すとゆるむ

ここまで分かると、チョコレートプリンの扱い方も見えてきます。

ゼラチンで固めたプリンは、常温にしばらく置いても、すぐには崩れません。ところが油脂だけで固めたものは、温度が上がるとゆるみます。25度を超えたあたりから、支えていた結晶が溶け始めるからです。

作ったあとは冷蔵庫でしっかり冷やし、食べる直前に出すのが確実です。写真を撮ろうとして長く外に置くと、表面から形が崩れていきます。

逆に言えば、口に入れたときに溶けるのはこの性質のおかげです。崩れやすさと口溶けの良さは、同じ性質の裏表ということになります。

チョコレートが溶ける温度についてはチョコレートが溶ける温度は何度?でも扱っています。

使うチョコレートで、固さが変わる

レシピを試すときに気をつけたいのが、チョコレートの種類です。

チョコレートに含まれる油脂の量は、商品によって違います。油脂が多ければしっかり固まり、少なければゆるく仕上がります。ミルクチョコレートとカカオ分の高いチョコレートでは、同じ分量でも結果が変わります。

レシピが種類を指定している場合は、そのとおりに使うのが確実です。同じ「チョコレート」でも中身は同じではないという点は、チョコレートの種類完全ガイドで整理しました。

ココアパウダーだけを使うレシピもありますが、こちらは事情が違います。ココアパウダーは油脂を搾ったあとの粉なので、固める力はチョコレートより弱くなります。だからこうしたレシピでは、ゼラチンやコーンスターチが一緒に使われることが多いのです。カカオの原料それぞれの違いはカカオマス・ココアバター・ココアパウダーの違いとは?にまとめています。

生チョコと、近い親戚

同じ仕組みで固まる菓子は、プリンだけではありません。生チョコもそのひとつです。

生チョコは、チョコレートと生クリームを合わせて冷やし固めたものです。ゼラチンは使いません。固まっているのは、やはりココアバターの結晶です。

違うのは水分の量です。生クリームの割合を増やせばやわらかくなり、減らせばかたくなります。チョコレートプリンは、この割合をさらに液体側へ振ったものだと考えると分かりやすくなります。同じ材料で、配合を変えただけの兄弟のような関係です。

境目ははっきりしていません。生クリームを増やしていけば、ある時点で「切って食べるもの」から「スプーンですくうもの」に変わります。呼び名が変わるだけで、起きている現象は同じです。

なめらかに仕上げるための一手

作るときにつまずきやすいのは、口当たりです。ざらつく、あるいは分離するという失敗が起こります。

原因の多くは温度にあります。チョコレートを高温にしすぎると、油脂が分かれて表面に浮きます。湯煎の温度を上げすぎないことが基本です。手順はチョコレートの溶かし方にまとめました。

もうひとつ有効なのが、型に流す前に濾すことです。溶け残った粒や、混ざりきらなかった塊を取り除けます。ひと手間ですが、仕上がりの舌ざわりがはっきり変わります。

混ぜ方にも注意が要ります。勢いよくかき混ぜると空気が入り、冷えたときに気泡が残ります。ゴムべらで静かに合わせるほうが、密度のつまった仕上がりになります。

混ぜて冷やすだけ、の裏側

「混ぜて冷やすだけ」と書かれたレシピは、手順としては確かに簡単です。けれどその裏では、カカオ豆の半分以上を占める油脂が、溶けて、また結晶に戻るという変化が起きています。

固まってくれるのは偶然ではなく、ココアバターという油脂がもともと持っている性質のおかげです。次にチョコレートプリンを作るときは、冷蔵庫に入れた数時間のあいだに何が起きているのかを、少し想像してみてください。

冷やす時間も、仕上がりを分ける要素です。表面が固まっていても、中心まで冷え切っていないことがあります。時間に余裕があるなら、半日ほど置いてから食べたほうが、口当たりは安定します。急いで出すと、スプーンを入れた瞬間に中身が流れ出してしまいます。

固める材料を知っておくと、レシピを選ぶときの見方も変わります。ゼラチンの記載がないレシピを見かけたら、何が代わりに固めているのかを考えてみてください。

参考文献

※レシピによって配合や手順は異なります。実際に作る際は各レシピの指示に従ってください。