九州の人にとっては当たり前の存在で、それ以外の土地では名前も知られていない。ブラックモンブランは、長くそういう位置にあったアイスバーです。
名前を聞いて、ケーキのモンブランを思い浮かべる人もいるはずです。ただしこの商品の名前は、栗とは関係がありません。由来はヨーロッパの山です。
1969年、佐賀県で生まれた
ブラックモンブランを作っているのは竹下製菓という会社で、本社は佐賀県小城市にあります。創業は明治期にさかのぼる古い菓子会社です。
この商品の発売は1969年です。五十年を超えて売られ続けていることになります。
九州のスーパーやコンビニでは定番として扱われ、地元では「アイスといえばこれ」という位置を占めてきました。地域の菓子が長く残る構造についてはチョコレートクランチはなぜ土産の定番なのかでも触れました。
名前はアルプスのモンブラン山から
名前の由来は、公式サイトにはっきり書かれています。
3代目社長であった竹下小太郎がアルプス山脈の最高峰「モンブラン山」を目の前に眺めたときに感じた、「この真っ白い雪山にチョコレートをかけて食べたらさぞ美味しいだろう」との思いを、佐賀に戻って商品化したものとされています。
つまり発想の出発点は、雪山にチョコレートをかけるという光景です。白いバニラアイスを黒いチョコレートで覆うという構造は、その景色をそのまま菓子にしたものだと読めます。
「ブラック」が付いているのは、かけたチョコレートの側を指しているのでしょう。白い山があって、その上に黒がかかる。名前の前半と後半が、そのまま商品の断面を説明しています。
「最高峰を目指す」という意味も入っている
公式サイトは、もう一つの意味も添えています。
「モンブラン山のように、アイスクリーム界の最高峰を目指すぞ!」という想いが名称に取り入れられた、というのです。
山の名前を借りることには、二つの働きがあります。見た目の説明と、目標の宣言です。雪山の見立てとしても機能し、同時に業界の頂点を狙うという意思表示にもなっています。
商品名に願いを込める例は日本の菓子に多く、チョコQ助の「Q助」は割れた煎餅のことで扱った名前のように、由来を知らないと意味が取れないものもあります。この商品の場合は、山の名前という分かりやすい形で両方を兼ねています。
三つの層でできている
構造を見ると、なぜこの食感になるのかが分かります。公式サイトは「バニラアイスにチョコレート、クッキークランチといった洋菓子風の高級感をもった」構成だと説明しています。
| 層 | 中身 | 役割 |
|---|---|---|
| 中心 | バニラアイス | 冷たさと甘さ |
| 中間 | チョコレート | 味の核と形の保持 |
| 外側 | クッキークランチ | 噛んだときの手応え |
三つの層が、それぞれ別の役割を持っています。アイスだけでは輪郭がぼやけ、チョコレートだけでは単調になり、クランチだけでは冷たさが出ません。
チョコレートで覆う層には、温度の設計が関わっています。冷たい状態でパリッと割れる必要があり、口の中では溶けなければなりません。この仕組みはチョコアイスのコーティングはなぜパリッと割れるのかで詳しく扱いました。
外側のクランチは、この構造の仕上げです。冷たいものを噛むとき、乾いた歯応えが混ざると印象が変わります。冷やして食べるチョコレートの考え方は冷やして食べるチョコレートにまとめています。
当たり棒という仕組み
この商品を語るときに欠かせないのが、棒に印刷された当たりです。
バーには「あたり」(点数)か「はずれ」が印刷されており、商品と同じ値段分の点数を集めることで、店頭でブラックモンブランまたはミルクックと無料で交換できる仕組みが長く続いています。
注目したいのは、点数を集める方式である点です。一本当たれば一本もらえる形ではなく、値段分の点数に達するまで集める必要があります。
この設計は、買う側の行動を変えます。当たりが出たら棒を捨てられなくなり、次も同じ商品を選ぶ理由ができます。当たりが出なかった一本も、点数として意味を持つ場合があります。
そして交換できるのは自社の商品です。当たりが出るたびに、その商品を食べる機会が増える。地元で定番になっていく過程に、この仕組みが効いていたと考えられます。
ミルクックという、もう一本
当たりの交換対象には、もう一つの商品名が挙がっています。ミルクックです。
同じ会社が作っている別のアイスで、交換のときにどちらかを選べる形になっています。つまりこの仕組みは、一つの商品を売るためのものではなく、会社の商品どうしを行き来させる設計になっているわけです。
当たりが出た人は、いつも食べているほうを選ぶか、まだ食べていないほうを試すかを決めることになります。無料で交換する場面は、新しい商品を試す抵抗がいちばん低い場面でもあります。
一本の当たりが、別の商品を知る入口になる。長く続けてきたキャンペーンには、そういう働きも含まれていると考えられます。
ボロボロ落ちるという弱点
この商品には、食べ方についてよく語られる悩みがあります。外側のクランチが落ちることです。
三層構造の利点は、そのまま弱点にもなります。クランチはチョコレートに貼り付いているだけなので、噛んだ振動で外れます。冷えて硬い状態ほど、勢いよく飛びます。
対処としてよく言われるのは、袋を破りすぎずに少しずつ出すこと、そして下に受け皿を用意することです。溶け始めるとチョコレートが柔らかくなり、クランチも落ちにくくなりますが、そこまで待つと形が崩れます。
落ちる欠片が出るのは、外側に乾いたものを付けている証拠でもあります。この点は、包み方から考えるチョコレートのラッピングの話とも通じます。食感を優先すれば、こぼれやすさは避けられません。
九州の外へ出ていった
長く九州中心だったこの商品は、販路が広がってきました。
東京都内のスーパーや関西地方のコンビニなどでも販売されているとされます。地方の定番が全国の棚に並ぶという流れは、近年の菓子や食品でしばしば見られるものです。
面白いのは、知名度の低さが売りになるという点です。九州では当たり前、他の土地では初めて。この差が「ご当地もの」という価値を作ります。地元の定番が土産物として機能する構図は北海道のチョコレートでも触れました。
ケーキのモンブランとは別物
名前が同じなので、念のため区別しておきます。
ケーキのモンブランは、栗のクリームを絞った洋菓子です。こちらも山の名前から来ていますが、商品としてはまったく別のものです。栗とチョコレートの関係についてはチョコレートモンブランは変わり種じゃないで扱いました。
| ブラックモンブラン | ケーキのモンブラン | |
|---|---|---|
| 形態 | アイスバー | 生菓子 |
| 主な素材 | バニラアイスとチョコレート | 栗のクリーム |
| 名前の由来 | モンブラン山(雪山とチョコの見立て) | モンブラン山(形の見立て) |
どちらも同じ山から名前を取っていますが、見立てている部分が違います。ケーキは山の形を、アイスは雪にチョコレートをかけた光景を借りています。
雪山という発想
まとめると、この商品の核にあるのは一つの光景です。
アルプスの雪山を前に、白い山にチョコレートをかけたらどうなるかと考えた。それを佐賀に持ち帰って商品にし、五十年以上売れ続けている。発想そのものは、ごく単純です。
次に食べるときは、断面を見てみてください。白いアイスの上に黒いチョコレートがかかり、その表面に細かいクランチが付いています。雪山にチョコレートをかける、という言葉がそのまま形になっています。
チョコレートが溶ける温度の性質はチョコレートが溶ける温度は何度?にまとめました。冷たいものを覆うという使い方は、この性質を逆手に取ったものです。
参考文献
※商品の仕様、販売地域、キャンペーンの内容は変更されることがあります。最新の情報はメーカーの公式サイトでご確認ください。
