秋になると店頭に並ぶモンブラン。その中に、チョコレートモンブランが混ざっていることがあります。

「モンブランは黄色いものだから、チョコレート味は変わり種」——多くの人がそう受け取ります。ところが調べていくと、話は逆でした。色でいえば、茶色いモンブランのほうが本来の姿に近いのです。

名前は「白い山」を指している

まず名前から確認します。モンブランはフランス語の Mont(山)Blanc(白) で、直訳すれば「白い山」。アルプス山脈の最高峰、モンブラン山のことです。

菓子の形は、この山を模したものとされています。細く絞り出したクリームが山肌、頂に載る白い粉砂糖や生クリームが雪。名前の「白」は、雪の部分を指しているわけです。

つまり名前は、クリームの色を言っているのではありません。ここが最初の勘違いの入り口になっています。

発祥には諸説あり、栗の産地として知られるイタリア・ピエモンテ州、あるいはフランス・サヴォワ地方が有力とされています。いま見かける山型の姿は、20世紀初頭にパリの老舗サロン「アンジェリーナ」が広めたものです。

本来のクリームは茶色い

ここが本題です。フランスやイタリアのモンブランに使われる栗のクリームは、茶色をしています。

栗を砂糖で煮詰めていくと、色は濃くなります。マロングラッセのような加工を経たものは、深い茶褐色になります。それをそのままクリームにするので、仕上がりも茶色です。

つまり原型のモンブランは、茶色いクリームに白い雪を載せた菓子でした。黄色ではありません。

日本で黄色くなった経緯

では、なぜ日本のモンブランは黄色いのでしょうか。

きっかけを作ったのは、東京・自由が丘の洋菓子店「モンブラン」の初代店主、迫田千万億(さこた ちまお)とされています。1933年にフランスでこの菓子に出会い、現地で作る許可を得て日本に持ち帰りました。

そのとき手を加えたのが、クリームです。茶色い栗のクリームを、日本人になじみのある栗の甘露煮を使った黄色いクリームに置き換えました。国産の栗を使い、西洋のマロングラッセではなく甘露煮を選んだ結果として、あの黄色が生まれています。

なお開業年については資料によって記述が異なり、諸説あるようです。ただし黄色いクリームへの置き換えが日本で起きたという筋は変わりません。

1984年、茶色いモンブランが珍しがられた

この置き換えがどれほど定着したかを示す出来事があります。

1984年、本家アンジェリーナの茶色いモンブランが日本に入ってきたとき、「珍しい」と驚かれたというのです。

順序を整理すると、こうなります。

年代 出来事 日本での「普通」
20世紀初頭 パリのアンジェリーナが山型を広める
1933年 自由が丘の店主がフランスで出会う
その後 甘露煮による黄色いクリームが定着 黄色
1984年 本家の茶色いモンブランが来日 茶色が「珍しい」

本来の姿が、後から来て珍しがられる。半世紀のあいだに、日本では黄色が標準になっていたということです。

日本の菓子には、輸入されたものが独自に姿を変えた例が少なくありません。生チョコレートは日本発祥?で扱っているような、日本側で生まれた区分もあります。モンブランは、外から来たものが色を変えて定着した例です。

だからチョコレート味は原点に近い

ここまでを踏まえると、冒頭の話に戻れます。

チョコレートモンブランは、日本の売り場では変わり種の位置に置かれます。けれど茶色いクリームで山を作るという点では、原型に近い見た目をしています。黄色を基準にしているから変わり種に見えるだけで、歴史をたどれば逆です。

もちろんチョコレートと栗のクリームは別のものです。同じ茶色でも中身は違うわけで、原型そのものというわけではありません。ただ「モンブランらしさ」を色で判断していた前提が、じつはそれほど古くないと分かります。

栗を使った菓子の中での位置

秋の売り場には栗の菓子が並びますが、それぞれ栗の扱い方が違います。チョコレートモンブランがどこに立っているかを見ておきます。

菓子 栗の形 主役
モンブラン(黄色) 甘露煮のクリーム 栗そのもの
モンブラン(茶色) 濃く煮詰めたクリーム 栗の凝縮した甘み
チョコレートモンブラン クリームか飾りに カカオと栗の対比
マロングラッセ 丸ごと糖漬け 栗の食感

黄色いモンブランは、栗の風味をそのまま前に出す設計です。対してチョコレートモンブランは、栗を単独で味わうのではなく、カカオとの対比で楽しむ方向に振ってあります。

だからこの二つは、比べて優劣をつけるものではありません。栗を主役にするか、栗を相手役にするかという設計の違いです。栗が好きで選ぶなら黄色いもの、チョコレートを楽しみたいなら茶色いものというのが、素直な選び方になります。

家で組み合わせるなら

わざわざ菓子を作らなくても、この相性は試せます。

もっとも手軽なのは、マロングラッセや甘栗にダークチョコレートを合わせて食べることです。栗の甘さとカカオの苦みが交互に来て、モンブランが狙っている対比を単純な形で確かめられます。

もう一歩進めるなら、栗のペーストをガナッシュに混ぜる方法があります。チョコレートと生クリームで作ったガナッシュに、市販の栗ペーストを加えるだけです。配合を変えれば、栗寄りにもチョコレート寄りにもできます。ガナッシュの作り方は「ガナッシュ」とは?生チョコとの違いを解説にまとめてあります。

このとき注意したいのが水分です。栗のペーストは水分を含むため、入れすぎると分離します。少量ずつ加えて様子を見てください。分離の仕組みと対処も同じ記事で扱っています。

栗とチョコレートは、なぜ噛み合うのか

味の面でも、この組み合わせには理由があります。

栗は甘さの質がおだやかで、でんぷん由来のほくほくした風味を持っています。砂糖の甘さとは違う、穏やかな甘みです。ここにカカオの苦みが入ると、輪郭がはっきりします。

逆から見ると、栗のクリームはチョコレートの受け皿として働きます。カカオ分の高いチョコレートは苦みが立ちますが、栗のやわらかい甘さがそれを受け止めます。どちらかが強く出すぎない組み合わせです。

もう一点、どちらも加熱で香りが生まれるという共通点があります。栗は焼くと香ばしくなり、カカオも焙煎によって香りが立ちます。焼き栗の匂いとチョコレートの匂いに通じるものを感じるのは、この点が重なるためです。カカオの焙煎についてはチョコレートができるまでの12工程で扱っています。

合わせる飲み物

栗とチョコレートを組み合わせた菓子は、甘さも脂質も重めになります。飲み物は渋みのあるものが向きます。

濃いめの紅茶、ほうじ茶、あるいは深煎りのコーヒー。口の中をいったん整えてくれるものを選ぶと、最後まで飽きずに食べられます。組み合わせの考え方はチョコレートに合う飲み物に整理しました。

栗の菓子は旬が短く、店頭に並ぶ期間も限られます。気になるものを見かけたら、その場で買っておくほうが後悔がありません。同じ店でも配合を毎年変えていることがあり、去年と同じ味とは限らないためです。

秋に見かけたら、色を確かめてみる

栗を使った菓子は秋に集中します。この時期にモンブランを見かけたら、クリームの色に目を向けてみてください。

黄色いもの、茶色いもの、チョコレートを合わせたもの。同じ名前で並んでいるそれぞれに、違う出自があります。黄色は日本で選ばれた色であり、茶色は海を渡ってきた色です。

菓子の名前が「白い山」であることを思い出すと、どの色であっても頂に載る白い部分こそが名前の由来だと分かります。山の色ではなく、雪の色で名づけられた菓子なのです。

参考文献

※発祥や開業年には諸説あります。商品の仕様は店舗によって異なります。