チョコレートでマシュマロを包んだ菓子は、コンビニにも駄菓子屋にもあります。あまりに身近で、なぜその組み合わせなのかを考える機会はほとんどありません。

けれど少し立ち止まると、チョコマシュマロという取り合わせは不思議です。片方は硬く、片方は柔らかい。片方は口の中で溶け、片方は噛むと潰れる。まったく性質の違う二つが、なぜこれほど定着したのでしょうか。

硬さの落差が、この菓子の正体

チョコマシュマロを口に入れたとき、最初に起こるのはチョコレートが割れることです。次にマシュマロが潰れます。この順番が決まっているところに、面白さがあります。

同じ柔らかさのものを重ねても、こうはなりません。柔らかいクリームを柔らかい生地で挟めば、口の中で一体になって終わります。硬いものと柔らかいものを重ねたときだけ、噛む動作が二段階に分かれるのです。

食べていて飽きにくいのは、この段差があるからです。ひと口ごとに、割れる・潰れるという二つの出来事が起きます。単調にならない仕掛けが、構造そのものに組み込まれています。

溶ける速さの違いも効いている

もう一つ、温度の面でも対比があります。

チョコレートのココアバターは、体温よりわずかに低い温度で溶けます。口に入れれば数秒で液体に変わります。一方のマシュマロはゼラチンと砂糖と空気でできていて、溶けるのではなく、唾液を含んでほどけていく。変化のしかたが違います。

先にチョコレートが消え、あとにマシュマロの甘さが残る。この時間差が、単に甘いだけの菓子との違いを生んでいます。ココアバターが体温付近で溶ける性質については「チョコレート」と「準チョコレート」の違いでも扱っています。

甘さは、じつは足し算になっていない

マシュマロもチョコレートも甘いのに、合わせて食べても甘さが二倍にはなりません。

理由のひとつは、マシュマロの正体がほとんど空気だからです。泡立てて気泡を抱き込ませているため、体積のわりに砂糖の量は多くありません。もうひとつは、チョコレートに含まれるカカオの苦みが、甘さを受け止めていることです。

もし中身が生クリームだったら、脂肪と脂肪が重なって重くなります。マシュマロは軽いぶん、チョコレートの濃さを引き立てる側に回れます。

アメリカの炭鉱町から始まった

この組み合わせは日本で生まれたものではありません。原型はアメリカ・テネシー州チャタヌーガにあります。

炭鉱で働く人たちに向けて、グラハムクラッカーでマシュマロを挟み、チョコレートで覆った菓子が作られました。持ち運べて、腹にたまり、手が汚れにくい。過酷な労働の合間に食べるための設計です。嗜好品というより、働く人の携行食として始まったわけです。

これが日本へ渡ってきたのは戦後でした。アメリカ兵が持ち込んだものが知られるようになり、当時アメリカで流行していた同種の菓子を手がかりに、国内での製造が始まります。

森永が1958年、ロッテが1983年

日本で最初に定着したのは、森永製菓のエンゼルパイです。1958年、直営店限定での販売から始まりました。「エンゼルパイはロッテ」と記憶している方もいますが、これは取り違えで、ロッテがチョコパイを発売するのは1983年、25年後のことです。

出来事
アメリカ・チャタヌーガで炭鉱労働者向けの菓子として誕生
戦後 アメリカ兵が日本に持ち込む
1958年 森永製菓がエンゼルパイを発売
1983年 ロッテがチョコパイを発売

四半世紀の間隔があることに注目してください。先行商品があってなお、後発が別ブランドとして成立したわけで、この組み合わせの需要が一社で埋まる規模ではなかったことを示しています。

チョコレートが日本にどう根づいていったかという流れ全体は、日本のチョコレートの歴史にまとめています。

三つの系統に分けて見る

チョコマシュマロと呼ばれるものは、構造によって性格が変わります。

系統 構造 食べたときの主役
パイ型 ビスケット+マシュマロ+チョコ被覆 ビスケットの香ばしさ
粒型 マシュマロにチョコを被せただけ マシュマロの弾力
中詰め型 チョコの殻にマシュマロを詰める チョコの厚み

パイ型はビスケットが入るぶん、噛む段階が三つになります。粒型はもっとも対比が素直に出ます。中詰め型はチョコレートの比率が高く、菓子というより一粒のチョコレートに近い印象になります。

同じ「チョコマシュマロ」でも、どれを想像するかで話が噛み合わないことがあるのは、この違いのためです。

なぜ廃れずに残ったのか

菓子の世界では、流行が去れば消える商品のほうが多数です。その中でチョコマシュマロが六十年以上残っているのには、いくつか理由が考えられます。

ひとつは、常温で流通できることです。マシュマロは生クリームと違って日持ちします。冷蔵を必要としないため、どこの店でも扱えます。原型が炭鉱労働者の携行食だったことを思えば、この性質は最初から備わっていたものです。

もうひとつは、季節に縛られないことです。チョコレート菓子は夏場に苦戦しがちですが、被覆に使われるのは常温で溶けにくく設計された油脂であることが多く、板チョコほど気温に左右されません。この設計思想はチョコレートが溶ける温度で扱っている話とつながります。

そして三つめが、構造そのものが飽きにくいことです。前半で見た二段階の食感は、味の流行とは無関係に効きます。味付けを変えても、この骨格は変わりません。抹茶味やいちご味の派生が次々に出せるのは、土台が味ではなく構造にあるからです。

食べ比べると違いが見える

もし興味が湧いたら、二つ以上を並べて食べ比べてみてください。着目すべき点は次の三つです。

  • 被覆の厚み:割れる感触の強さを決める
  • 中身の密度:気泡が多いほど軽く、少ないほど噛みごたえが出る
  • ビスケットの有無:あると香ばしさが加わり、噛む段階が増える

同じ棚に並ぶ商品でも、この三点は驚くほど違います。どれが優れているという話ではなく、狙っている食感が違うのだと分かるはずです。軽さを求めた設計と、食べごたえを求めた設計が、同じ名前のもとに共存しています。

飲み物を合わせるなら、温かいものが向きます。冷たい飲み物だと口の中でチョコレートが固まって残りやすく、せっかくの対比がぼやけます。組み合わせの考え方はチョコレートに合う飲み物に整理しました。

家で作ると、構造がよく分かる

理屈を確かめるには、自分で作ってみるのが早道です。市販のマシュマロを溶かしたチョコレートにくぐらせるだけで、粒型は再現できます。

このとき気づくのは、チョコレートが薄すぎると割れる感覚が出ないということです。ある程度の厚みがないと、あの二段階が生まれません。逆に厚くしすぎるとマシュマロの存在が消えます。市販品の被覆の厚みが、試行の末に決まったものだと分かります。

もう一つ試してほしいのが、焼く方法です。マシュマロを軽く炙ると表面のたんぱく質と糖が反応して色づき、香ばしさが出ます。中は溶けて、より流動的になります。冷たいままのものと食べ比べると、同じ材料でこれほど変わるのかと驚くはずです。

溶かす作業でつまずく場合は、チョコレートの溶かし方に湯煎と電子レンジそれぞれのコツをまとめてあります。

身近な菓子ほど、成り立ちが遠い

炭鉱で働く人の携行食として生まれ、戦争を経て海を渡り、日本の菓子として定着した。チョコマシュマロの一枚には、そういう距離が畳み込まれています。

硬いものと柔らかいものを重ねるという発想自体は単純です。けれどその単純さが百年近く残り、国を越えて受け入れられたことのほうが、むしろ珍しいことなのかもしれません。

次に食べるとき、最初に割れる音を意識してみてください。あの音が、この菓子が成立している理由そのものです。

参考文献

※商品の仕様や販売状況は変わることがあります。最新の情報は各メーカーの公式サイトでご確認ください。