割れた煎餅に、チョコレートが線を描くようにかかっている。青森県八戸市で生まれたチョコQ助は、見た目からして少し変わった菓子です。

変わっているのは見た目だけではありません。この菓子は、割れてしまった煎餅を、割れたまま売るところから始まっています。そして名前の「Q助」にも、きちんとした由来があります。

「Q助」は、もともと業界の言葉だった

まず名前の話から。「Q助」は、語呂合わせで付けられた愛称ではありません。

由来になっているのは「久助」という言葉です。これは煎餅の業界でかねてから使われてきた言い回しで、割れたり欠けたりした煎餅を指します。きれいな形にならなかったもの、袋詰めの途中で砕けてしまったもの。そうした品が久助と呼ばれてきました。

つまりこの商品名は、「割れ物です」と最初から名乗っているわけです。欠点を隠すのではなく、商品名にしてしまった。そこにこの菓子の性格が表れています。

土産の売上が、ほぼゼロになった

生まれた経緯は、菓子の明るい見た目とは対照的です。

作っているのは、青森県八戸市の有限会社しんぼりです。新型コロナウイルス感染症が世界的に流行したとき、この会社では土産用の南部煎餅の売上がほぼゼロになりました。人が移動しなくなれば、土産物は売れません。南部煎餅の生産ラインは休止に追い込まれます。

作るものがなく、売る先もない。菓子店にとっては行き止まりのような状況です。

社内に残っていたチョコレートから

そこで目が向いたのが、社内で商品開発用に保管されていたチョコレートでした。

すでに手元にあるもので何かできないか。チョコレートの量や煎餅の材料配分を変えながら試行錯誤が重ねられ、2021年3月に商品化にこぎ着けます。

そして直営店で200袋を売り出したところ、その日のうちに完売しました。休止していた生産ラインから生まれた商品が、初日で売り切れたことになります。その後、評判は口コミやSNSで広まり、人気商品になりました。

時期 出来事 そのときの状況
新型コロナの流行時 土産用の南部煎餅の売上がほぼゼロに 生産ラインが休止
2021年3月 商品化し、直営店で200袋を販売 その日のうちに完売
その後 口コミやSNSで評判が広まる 人気商品となり品薄が続く
2023年10月4日 白いチョコQ助を販売 味の異なる派生商品
2024年2月8日 QSUKE PREMIUMの販売開始 限定商品として展開

割れているからこそ、成立している

商品の中身は、割れたゴマ入りの南部煎餅に、チョコレートをライン状にかけたものです。

ここで効いているのが、煎餅が割れているという点です。整った丸い煎餅にチョコレートをかければ、きれいではあっても、ただの「チョコがけ煎餅」になります。割れているぶん断面や角が増え、チョコレートのかかり方が一枚ごとに変わる。

食べたときの印象も変わります。大きさも厚みも不揃いなので、一枚ごとに噛みごたえが違う。均一でないことが、そのまま食べ飽きなさにつながっています。

規格外だから安く売る、ではなく、規格外だからおいしい形にする。発想の向きが逆になっているところが、この商品の面白さです。

全面を覆わない、という選び方

もう一つ注目したいのが、チョコレートを線状にかけていることです。煎餅の全体を浸して覆うやり方もあるなかで、この商品は線を描く形を選んでいます。

全面を覆うと、口に入れた瞬間はチョコレートの味だけになります。線状であれば、チョコレートがかかった部分と、煎餅がむき出しの部分が交互に来る。一枚の中に、甘い場所とそうでない場所が同居することになります。

ゴマの香ばしさや煎餅の焼き目も、覆い隠されずに残ります。素材の側を主役から降ろさない。そういう判断だと読むこともできます。

塩味と甘味という、確かな組み合わせ

味の面では、南部煎餅の塩味と、チョコレートの甘味が組み合わさります。加えて、煎餅のサクサクとした食感が残ります。

しょっぱいものと甘いものを合わせると、甘さがより強く感じられます。この仕組みは対比効果と呼ばれるもので、柿の種チョコはなぜ合うのかで詳しく扱いました。醤油味のあられとチョコレートの相性と、同じ理屈がここでも働いています。

硬いものとやわらかいもの、砕けるものと溶けるものを重ねると食感に変化が生まれる、という話はチョコマシュマロはなぜ合うのかでも取り上げています。この菓子は、味の対比と食感の対比を、割れた煎餅という素材で成立させたものだと言えます。

乾いたものと、チョコレートの相性

煎餅にチョコレートをかけるという組み合わせは、構造の面でも理にかなっています。

煎餅は水分が少なく、乾いた状態を保つことで食感が成り立つ食べ物です。湿気を吸えば、あのサクサクとした感触は失われます。そこにチョコレートをかけると、油脂の膜が湿気を遮る役目を果たします。味を足すだけでなく、食感を守る働きも兼ねているわけです。

この相性は、和菓子全般に当てはまるものではありません。水分の多い生菓子にチョコレートをかけても、同じようにはいきません。水と油は混ざりにくく、時間がたてば状態が崩れます。乾いていることが、チョコレートと組み合わせるうえでの条件になっています。

菓子を湿気から守るという考え方は、保存の場面でも同じです。扱い方はチョコレートの正しい保存方法にまとめました。

さらに、ゴマ入りの煎餅であることも効いています。ゴマの香ばしさは、焙煎を経たカカオの香りと方向が近く、ぶつかりません。和の素材と洋の素材が並んでも違和感が出にくい理由の一つです。

組み合わせが奇抜に見えて、食べてみると納得できるのは、この土台があるからでしょう。思いつきで足したのではなく、素材の性質に沿った選択だったことになります。

品薄と、転売という副作用

人気が出たことで、別の問題も起きています。

品薄の状態は続いており、店舗では入荷のたびに個数制限が設けられているほか、インターネット上では高額での転売も行われています。買いたい人が買えないという状況です。

土産菓子は、日持ちがして、常温で運べて、数を配れることが強みになります。その条件はチョコレートクランチはなぜ土産の定番なのかで整理しました。この商品もその条件を満たしていますが、手に入りにくいこと自体が話題を呼ぶという、土産物には珍しい循環が起きています。

品薄が続けば、買えなかった人の関心はさらに高まります。一方で、旅先で気軽に買って帰るという土産本来の役割からは遠ざかる。人気商品が抱えやすい矛盾がここにあります。

欠けたものを、欠けたまま

チョコQ助が教えてくれるのは、商品の価値が「整っていること」だけで決まるわけではない、ということです。

割れた煎餅は、これまでも存在していました。久助という呼び名があるくらいですから、業界では当たり前のものでした。変わったのは、それを隠す対象ではなく、売り物の中心に据えたという一点です。

そしてその転換は、余裕のあるときではなく、売上がほぼゼロになった状況で起きています。手元にあるものを見直すしかなかったことが、結果として新しい商品を生んだ。次に売り場で見かけたら、一枚ずつ形が違うことを確かめてみてください。その不揃いこそが、この菓子が選ばれた理由そのものです。

割れた煎餅から始まった商品が、いまは手に入りにくいほどの人気になっている。この経緯は、何を売り物にできるのかという問いへの、ひとつの答えになっています。整っていないものを整えるのではなく、整っていないまま価値のある形にする。そういう選び方もあるのだと、この菓子は示しています。

和菓子とチョコレートを組み合わせた菓子は、煎餅だけではありません。チョコようかんが非常食になる理由では、賞味期間が5年6か月という備蓄向けの商品を手がかりに、羊羹がもともと持っていた保存性と、餡とカカオの相性を扱いました。

参考文献

※商品の販売状況や入荷は時期によって異なります。最新の情報は製造元の公式サイトでご確認ください。