醤油味のあられに、甘いチョコレート。組み合わせだけ聞くと首をかしげたくなりますが、食べてみると不思議なほどまとまっています。柿の種チョコです。

この「合う」には、きちんとした理由があります。しょっぱさが甘さを打ち消すのではなく、引き立てているのです。味の仕組みと、柿の種そのものの意外な誕生の話を、順に見ていきます。

「しょっぱいのに甘い」は、錯覚ではない

柿の種チョコを口に入れると、醤油の塩気とチョコレートの甘さが同時に来ます。ふつうに考えれば、違う味どうしがぶつかって、どちらもぼやけそうなものです。

ところが実際には、チョコレートの甘さがかえってはっきり感じられます。これは気のせいではありません。異なる二種類の味を合わせたとき、一方の味がより強く感じられる現象があり、「対比効果」と呼ばれています。

甘味、塩味、酸味、苦味、うま味。私たちが感じる基本の味は、単独で働くわけではありません。一緒に口に入ると互いに作用し合い、感じ方が変わります。これを「味の相互作用」と言い、対比効果はその代表的なものです。

塩味と甘味の組み合わせでは、塩味が加わることで甘味が強く感じられる方向に働きます。柿の種チョコの甘じょっぱさは、この仕組みの上に成り立っています。

スイカに塩をかけるのと同じ理屈

対比効果は、身近なところで昔から使われてきました。

いちばん知られているのが、スイカに塩を振る食べ方です。塩をかけると、スイカの甘さが増したように感じられます。あんこやお汁粉に塩を加えるのも同じ理屈で、甘味をより引き立てるための工夫です。お汁粉に食塩を加えると甘味が増すことは、広く知られています。

対比効果には、味わい方によって二つの形があります。

同時対比 経時対比
起きる場面 二つの味を同時に味わう 二つの味を続けて味わう
身近な例 スイカに塩をかけて食べる 塩気のあるものの後に甘いものを食べる
柿の種チョコでは 一粒の中で塩味と甘味が重なる 普通の柿の種と板チョコを交互に食べる

同時対比は、二つの味を一度に口にしたときに起きます。スイカに塩をかけて一緒に食べるのがこれです。経時対比は、ある味を味わったあとで別の味を口にしたときに起きます。

柿の種チョコは、一粒のなかに塩味と甘味が同居しているので、同時対比の菓子だと言えます。

一粒の中で起きていること

柿の種チョコを一粒口に入れたときの流れを、ゆっくり追ってみます。

まず舌に触れるのは、表面を覆うチョコレートです。体温で溶け始め、甘さが広がります。そこへ噛み砕いた柿の種から、醤油の香ばしさと塩気が出てきます。甘さと塩気が、ほぼ同時に舌の上で出会う。ここで対比効果が働き、チョコレートの甘さが際立ちます。

柿の種には、醤油味に加えてピリッとした辛さもあります。甘さ、しょっぱさ、辛さが一粒の中で重なり、単純な甘い菓子とは違う奥行きが生まれます。

一袋食べ進めても飽きにくいのは、この重なりのためでしょう。甘いだけ、しょっぱいだけの菓子なら、途中で舌が慣れてしまう。二つの味が互いを引き立て続けるので、次の一粒にまた手が伸びます。

硬さの違いも効いている

味だけでなく、食感の組み合わせも見逃せません。

柿の種はカリッと硬く、噛むと小気味よく砕けます。チョコレートは口の中で溶けてなめらかになります。砕けるものと、溶けるもの。性質の違う二つが一粒にまとまっているので、噛むたびに食感が変わります。

硬いものとやわらかいものを重ねると飽きにくい、という話はチョコマシュマロはなぜ合うのかでも取り上げました。柿の種チョコは、味の対比と食感の対比を、同時に持っている菓子だと言えます。

柿の種は、踏みつぶした金型から生まれた

ここで、土台になっている柿の種そのものに目を向けてみます。あの細長く反った独特の形には、意外な誕生の逸話があります。

柿の種を生んだのは、新潟県長岡の浪花屋製菓の創業者、今井與三郎です。あられを作っていたある日、あられ用の金型を、うっかり踏みつぶしてしまいました。

その歪んだ金型を使ってできたのは、ゆがんだ形のあられでした。これが「柿の種に似ている」と言われたことをヒントに、「柿の種」と名付けられたと伝えられています。

地元・長岡市の公式メディアは、柿の種の誕生を大正13年(1924年)としています。なお、誕生や商品化の年については、資料によって前後があります。

「浪花屋」という屋号にも由来があります。あられの作り方を最初に教えてくれたのが大阪の人だったことから、大阪の古い呼び名である「浪花」を屋号にしたそうです。

偶然の形が、百年の形になった

失敗から生まれた形が、百年たった今も同じ姿で食べられている。これは珍しいことです。

もし金型が踏みつぶされていなければ、あのあられは元の形のままだったかもしれません。偶然できたいびつな形が、結果として柿の種という食べ物の個性そのものになりました。

そしてその柿の種に、さらにチョコレートを重ねたのが柿の種チョコです。和の米菓と洋のチョコレート。偶然から生まれた形の上に、味の組み合わせという新しい工夫が積み重なっています。

冬の定番になった柿の種チョコ

柿の種チョコは、今では季節の定番として定着しています。

亀田製菓は、2015年から毎年冬季限定で『亀田の柿の種 ミルクチョコ&ホワイトチョコ』を発売しています。醤油味の柿の種に、ミルクチョコとホワイトチョコの2種類をまとわせた商品で、株式会社明治との共同開発です。

メーカー自身もこの商品を「一袋で”甘い”と”しょっぱい”を味わえる」と紹介しています。前半で見た対比効果を、そのまま商品の売りにしていることが分かります。

冬に限って売られるのは、暑い時期にはチョコレートが溶けやすいことを考えれば、理にかなった選び方とも考えられます。チョコレートと温度の関係はチョコレートが溶ける温度は何度?で扱っています。

家で「経時対比」を試してみる

柿の種チョコの仕組みは、家でも簡単に確かめられます。

用意するのは、普通の柿の種と板チョコです。まず柿の種を少し食べ、そのあとで板チョコをひとかけら口に入れてみてください。塩気のあとに甘いものを食べると、チョコレートの甘さがいつもより強く感じられるはずです。これが経時対比です。

次に、柿の種チョコを一粒食べてみます。今度は塩気と甘さが同時に来る、同時対比です。続けて味わうか、一緒に味わうかで、同じ組み合わせでも印象がどう違うかが体感できます。

板チョコは、カカオ分の違うものを何種類か用意すると、さらに面白くなります。甘いミルクチョコと苦めのダークチョコでは、塩気との釣り合い方が変わります。チョコレートの種類ごとの性格はチョコレートの種類完全ガイドにまとめています。

塩とチョコの組み合わせは、ほかにもある

塩気と甘さを組み合わせる発想は、柿の種チョコに限りません。

たとえばリンツのリンドールには、塩を効かせた「シーソルト」味があります。フレーバーの全体像はリンドール全種類フレーバー一覧で紹介しています。また、酸味でチョコレートの濃さを切る組み合わせについてはチョコオレンジはなぜ定番なのかで取り上げました。

塩気、酸味、苦み。チョコレートの甘さは、別の味と出会うことで表情を変えます。柿の種チョコは、その中でも日本の米菓と出会った、ひときわ身近な例です。

甘さとしょっぱさの、ちょうどいい距離

醤油味のあられとチョコレート。一見ちぐはぐな組み合わせが成立しているのは、しょっぱさが甘さを打ち消すのではなく、引き立てるからでした。スイカに塩をかけるのと同じ理屈が、一粒の中で働いています。

そしてその土台には、うっかり踏みつぶされた金型から生まれた、百年の歴史を持つ米菓があります。次に柿の種チョコを口にするときは、塩気と甘さが出会う瞬間を、少しだけ意識してみてください。

参考文献

※商品の仕様や販売時期は年によって異なります。最新の情報は各メーカーの公式サイトでご確認ください。