チョコようかんという菓子があります。羊羹にチョコレートの風味を合わせたもので、和菓子売り場にも、防災用品の棚にも並んでいます。

珍しいのは後者です。賞味期間が5年6か月という商品が、非常食として作られています。甘い菓子が5年以上もつというのは、あらためて考えると不思議な話です。その理由は、チョコレートではなく羊羹の側にあります。

羊羹は、もともと日持ちする菓子だった

羊羹は、餡に砂糖と寒天を加えて練り固めたものです。水分が少なく、砂糖の量が多い。この性質が、そのまま保存性につながります。

長期保存の商品を作っている井村屋は、5年6か月という賞味期間について、長年にわたり培ってきた羊羹の製造技術を活かして実現したと説明しています。新しい保存技術を持ち込んだのではなく、もともと羊羹が持っていた性質を伸ばしたという説明です。

保存食として考えたとき、羊羹には都合のよい条件が揃っています。

保存食に求められること 羊羹の場合
常温で置ける 冷蔵も冷凍も要らない
調理がいらない 開ければそのまま食べられる
水がいらない 水分を含んでいるため、飲み物がなくても食べやすい
すぐエネルギーになる 糖分が中心の菓子

災害時に問題になるのは、火と水が使えるかどうかです。加熱も水も必要としない食べ物は、それだけで扱いやすくなります。

賞味期間5年6か月という設計

井村屋の「チョコえいようかん」は、備蓄保存用として作られた商品です。数字で見ると、設計の意図がはっきりします。

項目 内容 備蓄で効いてくるところ
賞味期間 5年6か月 買い替えの手間が減る
内容量 280g(56g×5本) 分けて配れる
エネルギー 177kcal/1本(56g)あたり 一本で補給になる
アレルギー物質 不使用(特定原材料、準ずるものとも) 渡す相手を選ばない
開封 フィルムをひっぱるだけ 片手で開けられる

1本が56gで177kcal。小さな一本で、それなりのエネルギーが取れる量です。

見落とせないのがアレルギー物質不使用という点です。特定原材料も、それに準ずるものも使っていません。非常時には、誰が何を食べられるかを一人ずつ確かめる余裕がないことがあります。配る側にとって、成分を気にせず渡せる菓子は扱いやすいものです。

5本に分かれていることの意味

280gをひとつの塊にせず、56gを5本に分けているのも、備蓄用ならではの構成です。

ひとつには、分けて渡せること。一人で食べきる前提なら、大きな一本でも構いません。複数人で分ける場面を想定すると、はじめから分かれているほうが扱いやすくなります。

もうひとつは、開けた分だけで済むことです。大きな塊を開けてしまえば、その場で食べきるか、保存の心配をすることになります。小分けであれば、必要な本数だけ開ければよく、残りは封をしたまま置いておけます。

非常時に限らず、こうした小分けの形は日常でも便利です。かばんに一本だけ入れておく、という使い方ができます。

片手で開けられることの意味

包装にも工夫があります。フィルムをひっぱるだけで開けられるという形です。

井村屋はこれを「ワンハンドで食べやすい」と説明しています。片手がふさがっていても開けられる、という意味です。

この設計は非常時だけのものではありません。ランニングやサイクリングなど、動きながら補給する場面にも向いています。走りながら包みを開けるのに、両手を使うわけにはいきません。

保存がきくこと、そのまま食べられること、片手で開けられること。非常食に求められる条件と、運動中の補給食に求められる条件は、かなり重なっています。一つの商品が両方の棚に置かれているのは、そのためです。

普段から食べて、買い足す

長期保存の食品は、買って置いておくだけだと、気づいたときには期限が切れています。そこで勧められているのが、普段から少しずつ食べて、減った分を買い足すという考え方です。

菓子は、この方法と相性がよい食べ物です。わざわざ非常食として構えなくても、おやつとして消費できるからです。5年6か月という長い期限があるぶん、慌てて食べる必要もありません。

備蓄の棚に入れたまま忘れてしまうより、ときどき食べて入れ替えるほうが、結果として管理が続きます。

原材料を見ると、チョコレートが入っている

風味づけだけの「チョコレート味」ではないか、と思う人もいるかもしれません。原材料を見ると、そうではないことが分かります。

チョコえいようかんの原材料は、砂糖、生あん(いんげん豆)、カカオマス、水あめ、ココアバター、寒天、乳酸カルシウム、香料です。

ここにカカオマスとココアバターが入っています。この二つは、チョコレートを作るうえで中心になる成分です。それぞれが何であるかはカカオマス・ココアバター・ココアパウダーの違いとは?で詳しく扱っています。

餡に使われているのが小豆ではなくいんげん豆の生あんである点も特徴です。土台を白い餡にすることで、カカオの色と風味が前に出る構成になっています。

あんことカカオは、なぜ合うのか

そもそも、餡とチョコレートは相性がよいのでしょうか。食べてみると、意外なほど違和感がありません。

理由のひとつは、どちらも豆から作られていることです。餡は豆を煮て砂糖と練ったもの、チョコレートはカカオ豆を発酵させ焙煎して挽いたもの。原料の出発点が近く、甘みと、わずかな渋みや苦みを併せ持つという性格も似ています。

もうひとつは、口の中での溶け方です。練り羊羹は噛むというより、舌の上でほどけていきます。チョコレートも体温で溶けます。どちらも「溶ける」方向の菓子なので、食感がぶつかりません。

和の素材と洋の素材を合わせた菓子には、柿の種チョコはなぜ合うのかで扱った塩味と甘味の組み合わせや、チョコQ助の「Q助」は割れた煎餅のことで取り上げた煎餅とチョコレートの例もあります。羊羹の場合は、対比ではなく、性質の近いものを重ねている点が違います。

薄いシート状という、別の方向

保存食としての羊羹とは正反対の方向へ進んだ例もあります。

京都で1803年に創業した亀屋良長は、羊羹を薄いシート状にした「スライスようかん」を作っています。同社はこれを「新しいかたちの和菓子」と紹介しており、カカオを使った種類も展開されています。

薄いシートにすると、パンにのせて食べるという使い方ができます。羊羹を一切れ切って皿に置く、という形から離れた発想です。

片方は5年もつ塊として、もう片方は薄く伸ばした一枚として。同じ羊羹という菓子が、保存性と手軽さのそれぞれの方向へ展開しているのは面白いところです。

同じ羊羹でも、水分量で性格が変わる

ここまで保存性の話をしてきましたが、羊羹ならどれでも長くもつわけではありません。水分をどれだけ含んでいるかで、性格が変わります。

練り羊羹は、餡と砂糖を長く練り上げて水分を飛ばしたものです。かたく締まっていて、常温でも置いておけます。一方、水分を多く含んだ水羊羹は、口当たりが軽くなるかわりに、日持ちは短くなります。冷やして食べる菓子として夏に好まれるのは、この性質があるからです。

備蓄用の商品が練り羊羹の系統であるのは、当然の選択ということになります。保存を優先するなら、水分を減らす。口当たりを優先するなら、水分を残す。同じ名前の菓子の中に、正反対の設計が並んでいます。

チョコレートにも似たところがあります。水分の多いものを混ぜると分離しやすくなり、日持ちも短くなる。生クリームを使った菓子が早めに食べきるものになるのは、そのためです。この点は「ガナッシュ」とは?生チョコとの違いを解説で扱っています。

和菓子とチョコレートの距離

チョコようかんは、和菓子にチョコレートを足した思いつきの商品に見えるかもしれません。けれど中身を見ていくと、もともと保存性の高い菓子に、相性のよい素材を組み合わせたという、理にかなった設計だと分かります。

防災用品を買い足すとき、あるいは長い距離を走る前に、この小さな一本を思い出してみてください。5年6か月という数字の裏には、羊羹という菓子が長い時間をかけて身につけた性質があります。

非常食の棚に置かれるチョコようかんと、和菓子屋に並ぶチョコようかん。同じ名前でも、担っている役割はずいぶん違います。それでもどちらも、羊羹という土台があって初めて成り立っている点では同じです。

参考文献

※商品の仕様や賞味期間は変更されることがあります。最新の情報は各メーカーの公式サイトでご確認ください。