「チョコフレークは、スマホのせいでなくなった」
そう聞いたことがある人は多いはずです。手がべたつく菓子はスマートフォンを触りながら食べられないから売れなくなった、という説明は、ずいぶん広く知られました。
ただ、この話にはいくつか整理しておきたい点があります。そもそも、この菓子はいまも売られています。そして森永製菓が公式に説明した終了の理由は、スマートフォンではありませんでした。
半世紀以上前から売られてきた
まず、どれくらい古い菓子なのかを確認しておきます。
森永製菓がこの商品を発売したのは1967年9月です。日清シスコも翌1968年に販売を開始しています。つまり昭和40年代の初めには、複数の会社が同じ名前の菓子を作っていたことになります。
コーンフレークにチョコレートをまとわせるという構造は、当時としては新しいものでした。シリアルは軽く、噛むと音が出ます。そこにチョコレートをかけると、湿気を防ぎながら甘さを足すことができます。乾いたものを油脂で包むという発想は、いまも多くの菓子で使われています。
「スマホのせいで消えた」と言われた
2018年9月28日、森永製菓が生産を終えると発表しました。終了の時期は2019年の4〜6月ごろとされています。
昭和から続いた菓子がなくなるという知らせは大きく取り上げられ、そのときに広まったのが「スマートフォンを触りながら食べられないから売れなくなった」という説明でした。チョコレートで手が汚れる菓子は、画面を触る時代に合わなくなった。分かりやすい話です。
分かりやすいだけに、この理由だけが記憶に残りました。けれど公式の説明と、報道が指摘した背景は、本来わけて読む必要があります。
森永が説明したのは、工場の閉鎖だった
発表の際に理由として示されていたのは、千葉県野田市にある子会社の工場を閉鎖するためというものでした。
つまり、まず生産する場所がなくなるという話です。売れないから作るのをやめた、という説明とは順番が違います。
| 内容 | 出どころ | |
|---|---|---|
| 終了の理由 | 千葉県野田市の子会社工場を閉鎖するため | 会社の発表として報じられたもの |
| 背景 | チョコレートのトレンドがリッチ志向になったこと、チョコレートが手にべたつくことでスマートフォンの使用に支障が出ること | 報道が指摘したもの |
「スマホで手が汚れる」は、報道が背景として指摘した内容であって、会社が終了の理由として挙げたものではありません。両方が同じ話として混ざったまま広まったことになります。
もちろん、背景の指摘が的外れだったとは限りません。ただ、公式の説明と、記事が付け加えた解釈は、区別して読んだほうが正確です。
手が汚れるという弱点は、たしかにある
とはいえ、指摘そのものには根拠があります。この菓子は構造上、指がチョコレートに触れます。
フレークは一枚ずつがばらばらのまま袋に入っていて、つまんで食べます。チョコレートは表面に露出しているので、手に取れば必ず触れる。包装で守られているのは袋の中までで、口に運ぶ間は素手です。
体温に近い温度で溶けるチョコレートを、指でつまむ。これは避けようのない構造です。溶ける温度の話はチョコレートが溶ける温度は何度?で扱っています。夏場に指先が汚れやすいのも、同じ理由です。
日清シスコは1968年から作り続けている
もう一つ、見落とされやすい事実があります。この菓子そのものは、市場から消えていません。
日清シスコは1968年に販売を開始し、いまも作り続けています。ブランドサイトが用意され、2024年9月にもシリーズの新商品が発売されました。森永の生産終了後、ローソン向けに売られていた商品も、日清シスコ製のものへ切り替わっています。
つまり、2019年に起きたのは一社が生産をやめたことであって、菓子の消滅ではありません。「なくなった」という記憶と店頭の実態がずれているのは、このためです。
長く売られている菓子は、同じ名前で複数の会社が作っていることがあります。一社の動きを商品全体の終わりと受け取ってしまうのは、よくある読み違いです。
森永も、二度戻ってきた
森永製菓のほうも、その後まったく手を引いたわけではありません。
2020年9月29日には「ゴリゴリチョコフレーク」、2022年3月29日には「森永チョコフレーク<武骨な塊>」が発売されています。ただし、いずれも間もなく終売となりました。
名前も形も変えて再登場し、短い期間で姿を消す。この動きを見ると、売れ行きの問題がまったくなかったとも言い切れません。工場の閉鎖という直接の理由と、市場の変化という背景は、おそらく両方あったと考えるのが自然でしょう。
大事なのは、そのどちらか一方だけを理由として語らないことです。
同じ名前でも、味は同じではない
複数の会社が同じ名前の菓子を作っていたということは、人によって思い浮かべる味が違うということでもあります。
コーンフレークの厚みや大きさ、チョコレートの配合、かかっている量。作り手が変われば、これらは当然変わります。「昔食べたあの味」と言うとき、その記憶がどの会社の商品を指しているのかは、本人にもはっきりしないことが多いはずです。
生産終了を惜しむ声の中には、特定の会社の味を惜しむ気持ちと、菓子そのものを惜しむ気持ちが混ざっていたと考えられます。前者であれば、いま売られているものを食べても同じ記憶には戻りません。後者であれば、棚にはまだ並んでいます。
「なくなった」という一言では、この二つを区別できません。惜しむ気持ちがどちらに向いているのかは、意外と本人にも見分けがつきにくいものです。
クランチとフレークは、何が違うのか
ここで似た菓子との違いも整理しておきます。チョコレートとシリアルを組み合わせた菓子には、もう一つクランチがあります。
違いは形です。フレークは一枚ずつがばらばらのまま入っていますが、クランチは同じような材料を固めて塊にしたもので、一口サイズに切り分けられています。
この違いは、手の汚れ方にも関わります。ばらばらのものをつまめば指にチョコレートが触れますが、固めた塊なら持つ場所を選べます。土産菓子としてクランチが強い理由はチョコレートクランチはなぜ土産の定番なのかにまとめました。
どちらも、チョコレートが湿気からシリアルを守るという構造は同じです。菓子の保存についてはチョコレートの正しい保存方法も参考になります。
「消えた」と言われたときの読み方
この一件は、商品のニュースをどう読むかの練習問題のようなところがあります。
ひとつの商品が店頭から減ると、理由を説明したくなります。そのとき、分かりやすい理由ほど早く広まり、公式の説明は後ろに追いやられます。スマートフォンという言葉は、時代の変化を一言で示せるぶん、記憶に残りやすいものでした。
けれど実際には、工場の閉鎖という具体的な事情があり、他社は同じ菓子を五十年以上作り続けていました。なくなったのは一社の生産であって、菓子ではない。
チョコレートの種類や商品の広がりについてはチョコレートの種類完全ガイドでも扱っています。次に「あの菓子が消えた」という話を聞いたら、公式の発表と、記事が付け足した解釈を、一度分けて確かめてみてください。
店頭から消えたように見えても、作り手が替わって続いている場合があります。棚を眺めるときは、商品名だけでなく袋の裏の製造者名にも目を向けてみると、思わぬ発見があるかもしれません。
参考文献
- 森永チョコフレーク – Wikipedia
- 森永製菓「チョコフレーク」生産を終了へ|ライブドアニュース(共同通信)
- チョコフレーク ブランドサイト|日清シスコ株式会社
- 「チョコフレーク」シリーズ5品(9月16日発売)|日清食品グループ
※商品の販売状況は変わることがあります。最新の情報は各社の公式サイトでご確認ください。
