チョコレートが値上がりした、という話は毎年のように出てきます。ではその値段は、どこで決まっているのでしょうか。

答えは産地ではありません。ロンドンとニューヨークの取引所です。カカオの先物という仕組みが、売り場の価格の出発点になっています。

カカオの先物は、投資の話に見えて実際は農家とメーカーの両方に関わる仕組みです。

価格はロンドンとニューヨークで決まる

カカオ豆はインターコンチネンタル取引所(ICE)のロンドン市場とニューヨーク市場で先物として取引されています。この二つが国際的な指標とされています。

産地で農家が値段を決めているのではありません。取引所で付いた価格が基準になり、そこから産地の買い取り価格が逆算されます。

この構造が、産地に利益が残りにくい理由のひとつになっています。豆を重さで売る側と、加工して名前を付けて売る側の違いはカカオ農家の現状とマレーシアのチョコレートで扱いました。

先物とは何を決めている取引か

先物とは、将来の受け渡しについて、いま価格を決めておく契約です。

現物の取引 先物の取引
受け渡し いますぐ 将来の決まった時期
価格 その時の相場 契約した時点で確定
使う目的 必要な分を買う 価格の変動に備える

なぜこれが必要かというと、カカオの収穫量が年によって大きく変わるからです。

菓子メーカーは、半年先や一年先に使う豆の値段が分からないと商品の価格を決められません。先物で買っておけば、相場が上がっても決めた値段で受け取れます。価格を固定するための仕組みだということになります。

2024年に史上最高値を更新した

近年この相場が大きく動きました。

報道によれば、2024年12月18日にニューヨーク市場で1トン当たり1万2,931ドルの過去最高値を記録しました。ロンドン市場でも1トン6,246ポンドを付け、同様に最高値を更新しています。

年間で175パーセントの上昇が見込まれる水準だったとされ、2024年はもっとも値上がりした商品のひとつになりました。

原因として挙げられているのは、生産量の約7割を占めるアフリカの不作です。西アフリカの産地で起きていることはコートジボワールのカカオにまとめました。

なぜ供給がすぐ増えないのか

相場が上がれば増産すればよい、という話になりません。カカオにはそれができない事情があります。

苗を植えてから実をつけるまで4〜5年かかります。この年数は短縮できません。生態の詳細はカカオの花は幹に咲くにまとめました。年に6,000の花が咲いて実るのは20個ほどという、もともと余裕のない作物です。

病害が入れば回復にさらに時間がかかります。ブラジルは1989年にテングス病で生産が7割減り、2013年でも元の65パーセントにとどまっていました。経緯はブラジルのカカオで扱いました。

価格が上がっても、供給は数年遅れてしか動きません。この遅れが相場を振れやすくしています。

投機という要素

先物にはもうひとつの参加者がいます。実際に豆を使わない投資家です。

価格の変動そのものを狙って売買する参加者がいることで、市場に流動性が生まれます。メーカーが買いたいときに相手が見つかるのは、この層がいるからでもあります。

一方で、需給の実態以上に価格が振れる要因にもなります。2024年の高騰については、実需が主導したという報道と、投機の影響を指摘する見方の両方がありました。どちらがどれだけ効いたかを切り分けるのは簡単ではありません。

ここでは両方の要素が市場にあるという事実までを押さえておきます。

農家の側から見ると

相場が上がれば農家の収入も増える、とは限りません。

産地での買い取り価格は、国によって仕組みが違います。政府や公的機関が買い取り価格を定めている国では、相場が上がってもその年の農家の受け取りが連動しないことがあります。翌期まで反映が遅れる場合もあります。

また価格が上がる局面は、たいてい不作の局面です。単価が上がっても収穫量が減っていれば、手元に残る金額は増えません。カカオの先物が最高値を付けた年に、産地の農家が豊かになったとは言えないことになります。

この構造的な問題への対応として出てきたのが、産地と直接取引する方式です。ダイレクトトレードチョコレートとは?とフェアトレードチョコレートとは?で扱いました。相場とは別の基準で価格を決めるという考え方です。

メーカーの側から見ると

買う側にも事情があります。

先物で買えば価格は固定できますが、安くなったときの利益は取れません。高値で契約した後に相場が下がれば、他社より高い原料を使うことになります。

そのため実際には、必要量の一部を先物で押さえ、残りは相場を見ながら買うという組み合わせが取られます。どれだけ先に固定するかが判断になります。

結果として、同じ時期の商品でもメーカーによって原価が違う状態が生まれます。値上げの時期や幅が会社ごとにずれるのは、この判断の違いも理由のひとつです。各社の対応はチョコレート値上げの理由にまとめました。

カカオの先物を知っておく意味

一般の消費者が先物を売買する必要はありません。ただ仕組みを知っておくと、報道の読み方が変わります。

「カカオが最高値」という見出しを見たとき、それは取引所の価格の話です。産地の農家の収入の話でも、店頭価格の話でもありません。この三つは関係していますが、同じではありません。

何の価格か どこで決まるか 売り場への反映
先物価格 ロンドン・ニューヨークの取引所 数か月〜1年遅れ
産地の買取価格 国の制度や取引の形態 相場と連動しない場合がある
店頭価格 メーカーと小売の判断 内容量の変更で現れることも

見出しの数字がどの段の話なのかを見分けられれば十分です。

売り場に出てくるまでの時間差

相場が上がっても、翌日に板チョコが値上がりするわけではありません。

メーカーは先物で先に買っているため、すでに確保した豆を使い切るまでは価格を据え置けます。逆に言えば、相場が下がってもすぐ安くなりません。

実際の値上げがどう進んだかはチョコレート値上げの理由にまとめました。原材料費のほかに、物流、包装材、エネルギーの上昇も重なります。

数か月から一年の遅れで、相場が売り場に届くという理解が実際に近くなります。内容量を減らすという形で現れることもあります。重さの見方は板チョコ1枚は何グラム?で扱いました。

相場と無関係ではいられない商品

カカオの比率が高い商品ほど、相場の影響を強く受けます。

高カカオの商品は、カカオマスの割合が高いぶん原価が相場に連動します。種類ごとの違いはチョコレートの種類完全ガイドにまとめました。

逆に、生地や砂糖の割合が高い菓子は影響が相対的に小さくなります。チョコバットのように小麦粉が主体の商品は、この点で有利になります。

同じチョコレート菓子でも、相場に対する耐性が違うということになります。

値段の出発点を知っておく

まとめると、チョコレートの値段は取引所で付いた先物価格から始まっています。

ロンドンとニューヨークのICEで指標が決まり、2024年には史上最高値を更新しました。供給は植えてから4〜5年という時間に縛られ、相場が上がっても追いつきません。そして売り場には数か月から一年の遅れで届きます。

次に値上げの報道を見たときは、その数年前に産地で何が起きたかを考えてみてください。相場はたいてい、過去の出来事の結果として動いています。

参考文献

※価格は日々変動します。本文の数値は2024年時点の報道にもとづくものです。最新の相場は各取引所や金融情報サービスでご確認ください。本記事は投資の助言を目的としたものではありません。