チョコレートの話では、カカオを育てる国と食べる国が別だという構図がよく出てきます。産地は赤道付近に集まり、消費はヨーロッパや日本に集まります。

マレーシアのチョコレートは、そのどちらでもありません。育てていないのに、世界有数の加工拠点になっています。数字で見ると、その落差は極端です。

生産361トン、挽砕目標335,000トン

マレーシア政府の公式資料には、次の数字が記されています。

「2021年のカカオ作付面積は5,955ヘクタールで、生産量は361トン」

そして同じ資料に、こう続きます。

「2021年のマレーシアのカカオ豆挽砕目標は335,000トン」

項目 2021年の数字
カカオの作付面積 5,955ヘクタール
カカオ豆の生産量 361トン
カカオ豆の挽砕目標 335,000トン

生産361トンに対して、挽砕は33万トン台。およそ900倍以上の差があります。

つまり処理する豆のほぼ全量が輸入だということになります。自国の畑から来るものは、全体の0.1パーセントにも届きません。産業として見れば、農業ではなく製造業に属していることになります。

世界第6位の加工拠点

規模についても公式に記述があります。「マレーシアは最大級のカカオ豆の加工・挽砕の中心地のひとつで、世界第6位にランクされる」とされています。

育てる国としては名前が挙がらないのに、加工では世界の上位にいる。この産業には、育てる・加工する・食べるという三つの立場があるということになります。

立場 代表的な国
育てる コートジボワール、ガーナ、インドネシア、ブラジル
加工する マレーシア、オランダなど
ブランドを持つ スイス、ベルギー、フランス、トルコ

産地の側はカカオの産地と品種を記事別に整理、消費国の側は世界のチョコレートを記事別に整理にまとめました。マレーシアはその中間に位置しています。

何を作って輸出しているのか

挽砕した豆は、何になるのでしょうか。公式資料は輸出品目の構成を示しています。

ココアバターが輸出の37.2パーセント、ココアパウダーが23パーセント、乾燥カカオ豆が17.3パーセントで、そのほかにチョコレートや菓子が挙げられています。

輸出品目 割合
ココアバター 37.2パーセント
ココアパウダー 23パーセント
乾燥カカオ豆 17.3パーセント

注目したいのは、上位二つが板チョコではないことです。ココアバターとココアパウダーは、チョコレートや他の食品を作るための中間材料です。

この二つが何であるかはカカオマス・ココアバター・ココアパウダーの違いとは?にまとめました。カカオ豆を挽いてカカオマスにし、圧搾すれば脂肪分のココアバターと、残りのココアパウダーに分かれます。

マレーシアが売っているのは、分けた状態のカカオだということになります。

乾燥カカオ豆が17.3パーセントを占めているのも注目に値します。輸入した豆を、加工せずにそのまま再輸出している部分があるということです。集めて選別し、必要な相手へ配るという中継の役割も担っていることになります。

中間材料という立場

この位置には意味があります。ココアバターは、チョコレートを作るどのメーカーにも必要な材料です。

ヨーロッパや日本のメーカーは、カカオ豆をそのまま買うこともありますが、ココアバターやココアパウダーを買って配合することもあります。挽砕と圧搾という工程を外に出すという選択です。

工程全体の中でどこにあたるかはチョコレートができるまでで扱いました。焙煎と摩砕、そして圧搾は、設備が必要で量をまとめたほうが効率が上がる工程です。

量をまとめられる場所に集まる。マレーシアが加工拠点になった背景には、この性質があります。

同じ理屈は歴史的にも働いてきました。ココアの製法が生まれたオランダは、カカオを育てない国でありながら加工の中心になりました。その経緯はオランダのチョコレートで扱いました。加工の拠点は、産地ではなく条件のある場所にできるということです。

産地に近いという条件

地理も効いています。マレーシアの周りには、カカオの産地があります。

隣国インドネシアは主要生産国のひとつです。その状況はインドネシアのカカオで扱いました。フィリピンのチョコレートも産地として動きがあります。

産地から近い場所で加工すれば、輸送の距離が短くなります。乾燥させた豆は運べますが、運ぶ量と距離は費用に直結します。

加えて、輸入の関税が低いことが加工拠点の条件として挙げられています。豆を安く受け入れて、加工品として出す。この流れが成立する条件が揃っていたことになります。産地であることよりも、立地と制度のほうが効いた例だと言えます。

三つの立場を数字で比べる

育てる国、加工する国、ブランドを持つ国。それぞれの位置を数字で並べると違いがはっきりします。

自国での生産 加工 代表的な例
育てる国 数十万トン規模 一部のみ インドネシア(2024年 617,112トン)
加工する国 ほぼゼロ 世界上位 マレーシア(2021年 361トン/挽砕33.5万トン)
ブランドの国 ゼロ 自社工場 スイス、ベルギー、トルコ

マレーシアの特徴は、生産と加工の差が極端であることです。インドネシアは育てた豆の一部を自国で加工しますが、マレーシアは加工する量のほぼ全部を輸入に頼っています。

国ごとの状況はインドネシアのカカオ、ブラジルのカカオ、トルコのチョコレートでそれぞれ扱いました。この三つを並べて読むと、産業の構造が見えてきます。

よくある質問

Q. マレーシアのチョコレートブランドはありますか。 公式資料にはチョコレートや菓子も輸出品目として挙げられており、カカオを使った化粧品やケア用品、特色あるチョコレートの開発も記されています。ただし輸出の中心はココアバターとココアパウダーという中間材料です。

Q. なぜ育てていないのに加工拠点になれたのですか。 産地が近いこと、輸入の関税が低いこと、挽砕と圧搾が量をまとめたほうが効率の上がる工程であることが挙げられます。設備投資をして集中させれば、原料を育てていなくても成立します。

Q. 以前はカカオを育てていたのですか。 公式資料の2021年の作付面積は5,955ヘクタールです。生産量361トンという規模から見ても、現在は栽培が中心ではありません。過去の規模については本記事では扱っていません。

Q. 日本のチョコレートにマレーシア産の材料は入っていますか。 原材料表示にはココアバターやココアパウダーと書かれるだけで、どこで加工されたかは記載されません。表示の読み方は「チョコレート」と「準チョコレート」の違いにまとめました。

育てる側に利益が残らない構図

この構造を産地の側から見ると、別のことが見えてきます。

豆を売る国は、重さで値段が決まります。加工する国は、分けて形を変えて売ります。付加価値が生まれるのは加工の側です。

同じ問題はトルコのチョコレートでも扱いました。あちらは加工とブランドを買った国の話で、マレーシアは加工に特化した国の話です。どちらも原料を育てていません。

産地の側がこの構図を変えようとする動きもあります。産地で板チョコまで作る取り組みはダイレクトトレードチョコレートとは?と台湾のチョコレートで扱いました。カカオ農家が置かれた状況はカカオ農家の現状にまとめています。

売り場からは見えない国

まとめると、マレーシアはチョコレートの箱に名前が出ない国です。

産地表示にも、ブランド名にも現れません。それでも世界第6位の加工拠点として、ココアバターとココアパウダーを世界へ送り出しています。

次に原材料表示でココアバターという文字を見たら、その一語の後ろに加工の工程があることを思い出してみてください。どこで挽かれ、どこで圧搾されたかは、どこにも書かれていません。

参考文献

※数値は公式資料に記載された2021年時点のものです。生産量や挽砕量は年によって変動します。最新の情報は各機関の公表資料でご確認ください。