カカオの産地として台湾の名前を聞くことは、まだ多くありません。ガーナやエクアドルのような歴史はありません。

それでもこの島の南端で育てた豆から作られたチョコレートが、国際的な品評会で賞を重ねています。台湾のチョコレートがどこから来たのかを整理します。

屏東県という場所

舞台は屏東県です。台湾の最南端にあたる地域で、北回帰線より南に位置します。

カカオは赤道をはさんだ帯の中でしか育ちません。条件はカカオの産地と品種を記事別に整理にまとめました。台湾はその帯のかなり北寄りにありますが、南端であれば栽培の条件に届きます。

産地としては新しい土地です。何百年もカカオを育ててきた中南米やアフリカとは、出発点が違います。

カカオの発祥は中南米で、ヨーロッパの植民地支配を通じて西アフリカや東南アジアへ広がりました。その経路はチョコレートの歴史にまとめました。台湾のカカオは、その歴史の流れの外から始まっています。

2014年、フーワンチョコレートの創業

この地域から出てきたのがフーワンチョコレートです。

百科事典によれば、2014年12月に屏東で Warren Hsu によって創業され、屏東県を拠点とする豆から板チョコまでを手がける製造者とされています。

創業からまだ十年ほどです。長い歴史を持つヨーロッパのブランドとは、まったく異なる立ち位置にあります。

国際的な賞を重ねた

評価は早く来ました。百科事典には、「2018年に台湾で開催された International Chocolate Awards において、フーワンチョコレートは金5、銀6、銅5のメダルを獲得した」と記されています。

ひとつの作り手が一度の品評会で十六のメダルを得たということになります。台湾産のカカオが、国際的な基準で評価されたという事実です。

この種の品評会は、産地ごとの個性を評価する場として機能しています。見た目や知名度ではなく、味そのものを比べる仕組みです。似た位置にある催事としてはサロン・デュ・ショコラとはで扱ったものもあります。産地の名前が知られていなくても、味で判断される場があるというのは、新しい産地にとって重要な条件です。

栽培から板チョコまでを自前で行う

この作り手の特徴は、カカオの栽培まで自分たちの側に持っていることです。

豆の仕入れから板チョコまでを一貫して行う作り方は、Bean to Bar と呼ばれます。考え方はBean to Barチョコレートとは?にまとめました。フーワンはそこからさらに一段さかのぼり、木を育てる段階から関わっています。

一般的な作り方 この作り手の場合
カカオの栽培 産地の農家 地元の農家と連携、同じ地域
発酵・乾燥 産地で行う 自分たちで管理する
焙煎・摩砕 消費国の工場 同じ場所で行う

なぜこれが効くのかというと、発酵の管理が味を左右するからです。

カカオの味は焙煎より前の段階でほとんど決まります。収穫した豆を果肉に包まれたまま発酵させる工程で、香りの元が作られます。その仕組みはチョコレートができるまでとカカオハスクとカカオパルプで扱いました。

栽培と発酵を自分で見ていれば、ここを狙って調整できます。遠い産地から豆を買う作り手には、この部分を触れません。

産地と作り手が同じ場所にいる利点

栽培から加工までが近いことには、味の管理以外にも効く点があります。時間です。

収穫したカカオは、果肉に包まれた状態で発酵が始まります。水分の多い状態なので、置いておけば勝手に進みます。遠くへ運ぶには発酵と乾燥を終える必要があり、産地側の工程が終わった状態の豆しか輸出できません。

つまり遠い作り手は、すでに決まった発酵の結果を受け取ることになります。良い豆を選ぶことはできても、発酵の仕方そのものを変えることはできません。

同じ場所にいれば、収穫した日の豆をその日から管理できます。発酵の期間や温度を、作りたい味に合わせて動かせるわけです。この工程が味に与える影響はチョコレートができるまでで扱いました。

新しい産地の作り手が短期間で評価を得られるのは、この近さが効いているからだと考えられます。

カカオの品種という問題

もうひとつ、新しい産地には考えるべき点があります。どの品種を植えるかです。

カカオには大きく三つの系統があり、性質が違います。詳しくはカカオ豆の品種の違いと特徴にまとめました。香りの良い系統は病気に弱く収量が少なく、丈夫な系統は香りが穏やかです。

歴史のある産地では、その土地に合う品種が長い時間をかけて定着しています。新しい産地にはその蓄積がありません。何を植えるかを、短い時間で決める必要があります。

逆に言えば、しがらみがないという利点でもあります。過去の植え付けに縛られず、いま評価される味を狙って品種を選べます。新しい産地が質で勝負できる理由のひとつは、ここにあるのかもしれません。

新しい産地が評価される条件

歴史のない産地が評価を得たのは、偶然ではないでしょう。

カカオの生産量で見れば、台湾は上位の産地と比べるべくもありません。量では勝負になりません。その代わりに、工程を細かく管理して質を出す方向に進みました。

これは産地の側の戦い方としても意味があります。豆を安く売るのではなく、板チョコにして売る。この考え方はダイレクトトレードチョコレートとは?とフィリピンのチョコレートで扱いました。産地で加工まで行えば、利益の残る場所が変わります。

量を失った産地が質で立て直す例はブラジルのカカオでも触れました。台湾は最初から質で始めているという違いがあります。

アジアのカカオ産地という流れ

台湾だけの話ではありません。近年、アジアの産地から作り手が出てきています。

ベトナム産カカオの特徴はフルーティーな酸味で知られ、フィリピンのチョコレートはタブレア文化の上に豆から作る工房が生まれました。インドのチョコレート事情も産地としての動きがあります。

共通しているのは、産地でありながら消費国でもあるという点です。アフリカの主要産地が輸出に特化してきたのに対し、アジアでは国内に売り先があります。

自国で売れるなら、自国で加工する意味が出てきます。この条件の違いが、作り手が育つかどうかを分けているのかもしれません。

日本から買えるか

日本の売り場で見かける機会は、まだ限られています。

専門店や通販で扱われることがあります。探す場合はチョコレートのお取り寄せ人気ランキングやBean to Barチョコレートとは?で挙げた作り手の並びを参考にしてください。

台湾への旅行であれば、現地で買うのが確実です。持ち帰る場合は気温に注意が必要で、台湾は年間を通して暖かいため、移動中の温度管理が課題になります。チョコレートが溶ける温度はチョコレートが溶ける温度は何度?にまとめました。

歴史がなくても産地になれる

まとめると、台湾のチョコレートが示しているのは産地の条件が固定されていないということです。

カカオが育つ気候であれば、新しい土地でも産地になれます。そして量が足りなくても、工程の管理で評価を得る道があります。2014年に始まった作り手が、2018年に国際的な賞を重ねたという速さは、その証拠です。

次に台湾を訪れる機会があれば、チョコレートの売り場を見てみてください。カカオの産地として、まだ地図に書かれていない名前がそこにあります。

参考文献

※受賞歴や取り扱い店舗は変わります。最新の情報は各社の公式サイトでご確認ください。