チョコレートに入るのは、カカオの実のうちほんの一部です。実を割れば白い果肉があり、豆を焙煎すれば薄い皮が出ます。

その薄い皮をカカオハスク、白い果肉をカカオパルプと呼びます。どちらも板チョコには入りません。

では、その部分はどこへ行くのでしょうか。呼び名と行き先を整理します。

カカオハスクは、豆の種皮のこと

まず言葉を押さえます。明治の解説には、「カカオハスクとはカカオ豆の種皮のことで、シェルとも呼ばれています」と書かれています。

実の外側の硬い殻ではなく、豆一粒を包んでいる薄い皮のほうです。ここを取り違えると話が合わなくなります。

実の構造そのものはカカオとチョコレートの違いで図にしました。硬い殻の中に果肉があり、その中に豆が入っています。そして豆の一粒ずつにも皮があります。

いつ取り除かれるのか

取り除くタイミングは、作り方によって変わります。

明治の解説によれば、「カカオ豆をローストした後にカカオハスクを分離します」という手順があり、一方で「『ニブロースト』は、カカオニブとカカオハスクを分離してからローストします」とされています。

方式 順番
豆のまま焙煎する 焙煎 → ハスクを分離
ニブロースト ハスクを分離 → 焙煎

皮を分ける工程そのものは、工程全体の中ではチョコレートができるまでで扱いました。風を当てて軽い皮を飛ばす作業です。

どちらの順番でも、皮は必ず外されます。残った中身がカカオニブで、これを挽いたものがカカオマスになります。それぞれの関係はカカオマス・ココアバター・ココアパウダーの違いとは?にまとめました。

飼料、肥料、燃料という行き先

外された皮は、これまでどう扱われてきたのでしょうか。

明治の資料には、この皮を「飼料や肥料、燃料に使用することがある」と記されています。チョコレートの原料にはならないが、まったく捨てられていたわけでもない、という位置です。

繊維質で固い性質があるため、食用にそのまま向くものではありません。用途は、食べ物の外側にありました。

雑貨に変える取り組み

近年はもう一歩進んだ使い方が出ています。明治は「ひらけ、カカオ。」という取り組みを2022年3月に発表し、カカオハスクを製品に変える試みを進めています。

同社の資料には、製品例として「コースター、お皿、花瓶、などの日用品や雑貨」、そして大きな演説台を作った例が挙げられています。他社との協業でコースターや皿が生まれ、タンブラーや染めた布製品も開発されました。

配合の数字も公開されています。タンブラーはポリプロピレン45パーセント、カカオハスク30パーセント、ヒノキ間伐材25パーセントという構成です。

製品 カカオハスクの使われ方
コースター、皿、花瓶 成形材料として混ぜる
タンブラー 全体の30パーセントを占める
エコバッグ、巾着 布を染める色素として使う

食べ物ではなく、物として使う。皮の繊維質という性質が、そのまま素材の性質になっています。

カカオパルプは、果肉のこと

もうひとつが果肉です。明治の解説は「カカオパルプとは、カカオの果肉のこと」としています。

味についても記述があります。「パイナップルやキウイ、ライチなど南国のトロピカルフルーツを思わせる甘酸っぱい味わい」とされています。カカオの実は、果物として食べられる部分を持っていることになります。

成分の数字も出ています。大半は水分で82〜87パーセント、糖が10〜15パーセント、クエン酸が1〜3パーセントです。甘酸っぱいという表現は、この糖とクエン酸の組み合わせから来ています。

なお豆の数については、「カカオ豆は1個のカカオポッドの中に30〜40粒ほど入っています」とされています。

パルプは発酵に欠かせない

パルプは余りものではありません。チョコレートの味を作る工程で、なくてはならない役割を持っています。

明治の解説は、「微生物が生育する培地に最適なのが、糖分の多いカカオパルプです」とし、「発酵はチョコレートのおいしさを左右する重要な工程で、その発酵になくてはならないのがカカオパルプ」と書いています。

収穫した豆は、果肉に包まれたまま数日間置かれます。このとき糖分を微生物が分解し、その過程で香りの元になる成分が作られます。果肉がなければ、発酵は始まりません。

つまりパルプは、チョコレートに入らないのに、チョコレートの味を決めているということになります。産地による味の違いを扱った記事はカカオの産地と品種を記事別に整理にまとめました。

飲み物として商品になっている

発酵に使い切らなかったパルプは、近年商品になっています。

明治の資料には、産地では「ジュースやお酒を作って飲んでいます」という記述があり、商品例として明治の「ザ・カカオ カカオの果汁チョコレート」「カカオフラバノールドリンク」「カカオフラバノールゼリー」、GODIVAの「カカオフルーツジュース」、PACARIの「カカオパルプ&ニブチョコレートバー」が挙げられています。

産地では昔から飲まれていたものが、商品として外へ出てきたという順番です。産地別の商品の入口としては明治 ザ・チョコレートとはも参考になります。

産地でしか味わえなかったもの

パルプが長く商品にならなかったのには、はっきりした理由があります。傷みやすいからです。

水分が8割を超える果肉は、収穫してすぐに発酵が始まります。冷蔵設備のない農園から消費国まで運ぶのは、技術的にも費用的にも簡単ではありませんでした。

一方で豆は乾かせば長く保ちます。発酵させ、乾燥させた豆は船で運べます。つまり運べる部分だけが世界に広がり、運べない部分は産地に残ったということになります。

チョコレートが赤道付近で採れる原料をヨーロッパで加工する菓子になったのは、この性質と切り離せません。作る国と食べる国が分かれている構図は世界のチョコレートを記事別に整理で触れました。

近年になって果汁の商品が出てきたのは、加工と輸送の条件が変わったからだと考えられます。残っていたのは需要ではなく、運ぶ手段のほうでした。

二つを並べて比べる

呼び名が似ているので、整理しておきます。

カカオハスク カカオパルプ
何か カカオ豆の種皮 カカオの実の果肉
取れる場所 豆一粒ずつの表面 実の内側、豆を包んでいる
取り除く時期 焙煎の前または後 収穫後の発酵で消費される
性質 繊維質で固い 水分82〜87パーセント、甘酸っぱい
主な行き先 飼料、肥料、燃料、雑貨 発酵、ジュースや酒

片方は乾いた固形物、もう片方は水分の多い液状に近いもの。性質が正反対なので、行き先も別々になります。

よくある質問

Q. カカオハスクはカカオの実の殻のことですか。 いいえ。明治の解説では「カカオ豆の種皮のこと」とされています。実の外側の硬い殻とは別のもので、豆一粒ずつを包んでいる薄い皮のほうです。

Q. カカオハスクは食べられますか。 繊維質で固い性質があり、そのまま食べるものではありません。明治の資料では飼料や肥料、燃料のほか、雑貨の素材としての活用が挙げられています。

Q. カカオパルプはどんな味ですか。 明治の解説では「パイナップルやキウイ、ライチなど南国のトロピカルフルーツを思わせる甘酸っぱい味わい」とされています。カカオの香りではなく、果物の味です。

Q. パルプを全部ジュースにしてしまうと問題はありますか。 発酵に必要な糖分がパルプから来ているため、発酵に回す分は残す必要があります。明治の資料は「発酵になくてはならないのがカカオパルプ」としています。

豆だけを使ってきた菓子

まとめると、チョコレートは長いあいだカカオの実のうち豆だけを使う菓子でした。

皮は飼料や肥料や燃料に回り、果肉は産地で消費されるか、発酵に使われて終わっていました。それがいま、皮は雑貨の素材になり、果肉は飲み物として売られています。

背景には、カカオの価格上昇や生産地の事情もあります。限られた収穫から取れるものを増やすという発想は、カカオ農家の現状やエシカルチョコレートとは?で扱った問題と地続きです。

次にカカオの実の写真を見たら、豆だけでなく周りを見てみてください。白い果肉と薄い皮のほうが、実際には量が多いのです。

参考文献

※商品や取り組みの内容は変更されることがあります。最新の情報は各社の公式サイトでご確認ください。