店で売られているチョコレートの表面に、細かい模様が入っていることがあります。手描きにも印刷にも見えるあれは、転写シートという道具で付けられています。

貼ってはがすだけなので、道具としては単純です。ただうまく写らない条件がはっきりしているので、そこを押さえておく必要があります。

着色した油脂で模様を描いたフィルム

転写シートとは何かというと、製菓材料の専門商社の説明では「着色した油脂で模様を描いたフィルム状のシート」とされています。

ここが仕組みの核心です。インクではなく油脂で描かれているという点です。

チョコレートも油脂が主体の食品です。同じ油脂どうしなので、溶けたチョコレートに触れた模様はそちらへ移ります。フィルムそのものは移らず、上に乗っていた油脂の層だけが残ります。

チョコレートの油脂であるココアバターの性質はカカオマス・ココアバター・ココアパウダーの違いとは?にまとめました。体温より低い温度で溶けるという性質が、この道具を成り立たせています。

使う手順

専門商社が示している手順は次の通りです。

順番 やること
1 ガナッシュなど土台を用意する
2 土台より少し大きめに転写シートを切る
3 テンパリングしたチョコレートにくぐらせ、オーブンシートの上に置く
4 転写シートをのせ、軽く押さえる
5 チョコレートが完全に固まったら、シートをはがす

押さえるのは軽くで構いません。強く押すと模様がずれたり、土台の形が崩れます。

ガナッシュの作り方は「ガナッシュ」とは?生チョコとの違いを解説、溶かす工程はチョコレートの溶かし方完全ガイドにまとめています。

ざらざらした面が接着面

最初につまずきやすいのがここです。シートには表と裏があります。

模様が付くのはざらざらしている面のほうです。逆向きに使うと模様は写りません。フィルムのつるつるした面は、単なる台紙です。

見分け方は指で触ることです。模様の描かれた面には油脂の層があるので、わずかに粗い感触があります。使う前に必ず確かめてください。光に当てて見ると、模様の側がわずかに曇って見えます。

テンパリングが必要な理由

もうひとつの条件がテンパリングです。専門商社の説明では、「テンパリングしたチョコレートもしくは、コーティングチョコレート」が必要とされ、テンパリングをする場合は製菓用のクーベルチュールチョコレートの使用が前提になっています。

なぜ必要なのかは、固まり方の違いにあります。テンパリングとは、ココアバターの結晶を安定した形に揃えるための温度調整です。詳しくは「テンパリング」とは?で扱いました。

結晶が揃っていれば、チョコレートは縮みながら硬く固まります。この縮みが、シートから模様をきれいに剥がすために効きます。結晶が乱れていると、表面が柔らかいまま固まり、模様が中途半端に残ります。

使うチョコレートの選び方は「クーベルチュール」とは?普通の板チョコとの違いを参照してください。市販の板チョコでもできないわけではありませんが、仕上がりに差が出ます。

パリッと固まらないと写らない

専門商社の説明には、はっきりこう書かれています。「チョコレートがパリッと固まらないと、うまく模様を写すことができません」

これが失敗の判断基準になります。うまく写らなかったときは、模様やシートの問題ではなく固め方の問題である場合がほとんどです。

症状 考えられる原因
模様が薄い、部分的 完全に固まる前にはがした
まったく写らない シートの裏表が逆
表面が白っぽい、艶がない テンパリングが外れている
模様がずれる 押さえる力が強すぎた

固まるまでの時間は室温に左右されます。夏場は冷蔵庫に入れることになりますが、急激に冷やすと表面が結露して艶が失われます。温度の性質はチョコレートが溶ける温度は何度?にまとめました。

何に使えるか

用途は板状のものが中心です。

ガナッシュや生チョコの上面に貼ると、切り分けたときに一粒ずつ模様が入ります。プレートを作って別の菓子に乗せる使い方もあります。ケーキやタルトの飾りとして使えば、表面の見え方が変わります。

トリュフのような丸いものには向きません。平らな面がないと、シートが密着しないためです。丸いものを飾るなら、ココアパウダーやナッツをまぶす方法になります。手順はチョコトリュフの作り方で扱いました。

模様を付けるという目的に対して、別の答えを出している菓子もあります。断面に星形が出る仕組みを扱ったチョコベビーの粒に星が入っている理由は、表面ではなく中に模様を仕込む方式です。

貼る前に決めておくこと

作業そのものは短いので、先に決めておくと手が止まりません。

土台の大きさ。シートは土台より少し大きめに切ります。あとで切り分けるなら、模様の向きも考えておく必要があります。切る位置で模様が途切れると、一粒ずつの見え方が揃いません。

固める場所。平らで動かさずに置ける場所が必要です。固まる途中で傾けると、チョコレートが流れて厚みが偏ります。

はがすタイミング。完全に固まってからです。触って冷たく硬くなっているかを確かめます。早くはがすと模様が半分だけ残ります。

似た道具との違い

チョコレートの表面に模様を付ける道具は、転写シート以外にもあります。目的が違うので整理しておきます。

道具 付くもの 必要な条件
転写シート 着色された模様 テンパリング、平らな面
テクスチャーシート 凹凸だけ(色は付かない) 固まる前に押し当てる
チョコペン 手描きの線や文字 固まった面の上に描く
型(モールド) 立体の形 流し込んで冷やす

転写シートだけが「色」を移します。凹凸で模様を作るテクスチャーシートは、光の反射で模様が見えるもので、色は付きません。

文字やメッセージを入れたいなら、転写シートよりチョコペンのほうが向いています。決まった模様を均一に、何枚も同じように付けたい場合が転写シートの出番です。

よくある質問

Q. 市販の板チョコでも使えますか。 使えますが、仕上がりに差が出ます。専門商社の説明ではテンパリングをする場合は製菓用のクーベルチュールチョコレートが前提とされています。板チョコは配合が異なり、パリッと固まりにくい場合があります。

Q. ホワイトチョコレートでも模様は写りますか。 写ります。ただし模様の色が薄い場合は、白い土台では見えにくくなります。濃い色の模様を選ぶか、ミルクやダークの土台にすると差がはっきりします。

Q. 冷蔵庫で急いで固めても大丈夫ですか。 急激に冷やすと表面が結露し、艶が失われたり白い跡が残ったりします。まず室温で固め始めてから冷蔵庫に移すほうが確実です。

Q. 一度使ったシートは再利用できますか。 模様の層がチョコレートへ移ってしまうため、同じ場所は再利用できません。ただし1枚のシートのうち使っていない部分は、切り分けて次に使えます。

Q. 模様が途中で切れてしまいます。 チョコレートの厚みが足りず、シートに密着していない可能性があります。土台より少し大きめにシートを切り、全面が触れるようにしてください。

保管と扱い

シートは油脂でできているので、扱いに少し気をつけます。

高温の場所に置かないこと。模様の層が溶けてにじみます。直射日光の当たる場所や、暖房の近くは避けてください。

折り曲げないこと。折り目の部分で模様が割れ、写したときに線が入ります。丸めて保管するか、平らに重ねておきます。

使いかけのシートは、切った端を残しておけば次に使えます。模様の入っている面を内側にして保管すると、他のものに触れて傷むのを防げます。

包む工程まで含めた考え方はチョコレートのラッピングにまとめました。油脂と温度に気をつけるという点は、シートも包装も同じです。

模様を移すという考え方

まとめると、転写シートは油脂で描いた模様を、油脂の食品に移す道具です。

インクを刷るのではなく、同じ性質のものを重ねて移す。だから条件は単純で、チョコレートがきちんと固まるかどうかだけが結果を分けます。

手順そのものは数分で終わります。うまくいかないときは、シートではなく前の工程を見直してください。他の技術との関係はチョコレートの作り方を記事別に整理から辿れます。

次に店でチョコレートの模様を見たら、表面に触ってみてください。印刷ではなく、わずかに厚みのある層が乗っているのが分かります。

参考文献

※商品の仕様や取り扱いは販売元によって異なります。使用前に各商品の説明をご確認ください。