カカオの産地を語るとき、インドネシアのカカオはあまり話題になりません。生産量では主要国に数えられるのに、産地名として板チョコに書かれることは少ないからです。

理由のひとつが、収穫後の工程にあります。この国では発酵させない豆が多いとされています。そしてそれには、はっきりした経済的な理由がありました。

主要生産国だが、生産量は落ちている

まず数字を見ます。インドネシアのカカオは、長く世界の上位に数えられてきました。

生産量の推移として、2010年に837,918トンで最高を記録し、2018年に767,280トン、2024年には617,112トンという数字が示されています。十数年で三割近く減っていることになります。

世界順位については資料によって扱いが分かれます。第7位とする記述があり、2024-2025年度の推定生産量を190,000トン、世界生産に占める割合を約4.0パーセントとする数字も出ています。

ここは注意が必要です。617,112トンと190,000トンでは基準が違います。総生産量と、市場に出る量や輸出量とでは数え方が変わるためです。本記事では内訳の一致している推移の数字を中心に置き、順位は「主要生産国のひとつ」という扱いにしておきます。

スラウェシ島が中心

産地は特定の島に集まっています。スラウェシ島です。

州別の内訳として、中央スラウェシが19.5パーセント、東南スラウェシが15.0パーセント、南スラウェシが13.1パーセント、西スラウェシが10.3パーセントという数字が示されています。合計で約57.9パーセントです。

州 全国生産に占める割合
中央スラウェシ 19.5パーセント
東南スラウェシ 15.0パーセント
南スラウェシ 13.1パーセント
西スラウェシ 10.3パーセント

ひとつの島で全国の六割近くを生産していることになります。産地が集中していることの意味はブラジルのカカオで扱いました。病害や天候の影響を受けやすい構造です。

品質の課題として挙げられていること

この国のカカオについて、指摘されている課題があります。

品質が一定しない、発酵が足りない、水分が不十分、豆の大きさが揃わない、皮の割合が高い、酸が強い、味が一定しないといった点が挙げられています。そして約85パーセントが低品質に分類され、市場価格から10〜15パーセントの割引を受けているとされています。

つまり同じ重さで売っても、安く買われているということになります。

発酵は味を決める工程

ここで押さえておきたいのが、発酵の役割です。

収穫したカカオは、果肉に包まれた状態で数日間置かれます。果肉の糖分を微生物が分解し、その過程でチョコレートの香りの元になる成分が作られます。この仕組みはカカオハスクとカカオパルプで扱いました。

明治の解説は、「発酵はチョコレートのおいしさを左右する重要な工程」としています。工程全体の中での位置はチョコレートができるまでにまとめました。

焙煎より前の段階で、味の方向はほとんど決まります。発酵を省いた豆からは、発酵由来の香りは出ません。酸が強く残る、味が一定しないという指摘は、この工程と結びついています。

なぜ省かれるのか

では、なぜ重要な工程が省かれるのでしょうか。理由は農家の側の計算にあります。

2017年に中央スラウェシで行われた調査では、カカオ農家の半数以上が豆を発酵させていないことが示され、その最も大きな要因として発酵した豆に付く価格のプレミアムがごくわずかであることが挙げられています。

発酵させる場合 発酵させない場合
必要な日数 数日かかる すぐ乾燥へ回せる
必要な手間 管理が要る 少ない
受け取る価格 ほとんど変わらない ほとんど変わらない

手間と日数をかけても、受け取る金額が変わらない。この条件では、省くのが合理的な判断になります。

農家が置かれている経済的な条件はカカオ農家の現状で扱いました。品質の問題は、技術の問題ではなく価格の仕組みの問題だということになります。

植えられた経緯

この国にカカオが入った経緯も、産地としての性格に関わっています。

インドネシアはもともとカカオの原産地ではありません。原産は中南米で、植民地支配を通じて世界各地へ広がりました。その経路はチョコレートの歴史にまとめました。

最初から輸出用の作物として植えられたということになります。自国で食べる菓子のために育てたのではなく、外へ売るために育てた。この出発点は、西アフリカの産地と共通しています。

輸出向けであれば、買う側の求める形で出荷することになります。買う側が重さで買うなら、重さを揃えることが優先されます。発酵という味のための工程が後回しになる背景には、この成り立ちもあると考えられます。

逆に、国内に売り先のある産地では事情が変わります。フィリピンのチョコレートで扱ったタブレア文化のように、自国で飲んだり食べたりする伝統があれば、味を作る工程が残ります。

小規模農家が中心という事情

もうひとつの条件が、農家の規模です。

インドネシアのカカオは、大規模農園ではなく小規模な家族経営が中心とされています。発酵には、豆をまとめて一定量にして管理する必要があります。少量では温度が上がらず、発酵がうまく進みません。

つまり小規模な農家が個別に発酵させるのは、技術以前に量の問題として難しくなります。まとめて発酵させる施設を共同で持つという形が取られることもありますが、そこまでの仕組みが要ります。

農家が悪いのではなく、仕組みが揃っていない。インドネシアのカカオの課題を読むときは、この点を分けて考える必要があります。産地の構造的な問題はカカオ農家の現状でも扱いました。

価格が味を決めている

この構図を逆から見ると、別のことが見えてきます。

豆を重さで買い、品質による差を付けない仕組みであれば、農家が質を上げる理由はありません。買う側がどう値段を付けるかが、産地の作り方を決めていることになります。

これに対する答えとして出てきたのが、産地と直接取引する方式です。考え方はダイレクトトレードチョコレートとは?にまとめました。質に応じて価格を変えれば、工程をかける理由が生まれます。

同じ問題意識はフェアトレードチョコレートとは?やエシカルチョコレートとは?で扱った取り組みにも通じています。価格の付け方を変えることが、味を変える手段になりうるわけです。

発酵する豆も作られている

すべてが未発酵というわけではありません。

国際カカオ機関の2020年の扱いでは、インドネシアから輸出される豆のうち「ファイン」または「フレーバー」と分類されるのは10パーセントとされています。残りは大量取引向けの豆です。

この10パーセントの側には、発酵を管理して質を狙う作り手が含まれます。アジアの産地で加工まで行う動きはフィリピンのチョコレートや台湾のチョコレートで扱いました。インドネシアでも同じ方向の取り組みが出てきています。

工程を省くという判断の背景

まとめると、インドネシアのカカオは工程を省くことが合理的になってしまう条件の中にあります。

生産量は2010年を頂点に減り続け、豆の多くは割引された価格で取引されている。発酵という味を決める工程は、それに見合う対価がないために省かれている。

次に産地表示を見たときは、そこに書かれていない産地のことも考えてみてください。インドネシアの豆は多くのチョコレートに入っていますが、名前が表に出ることは少ないのです。

参考文献

※生産量や順位は資料と集計の基準によって数値が異なります。本文ではその旨を明記しました。