コンビニのレジ横に並んでいる、黒い包みの一本。ブラックサンダーは、いま日本でもっとも名前の知られたチョコレート菓子のひとつです。

ただ、この商品が有名になった経緯は少し変わっています。味や高級感で売れたのではなく、安いことを堂々と掲げて売れたからです。その来歴をたどります。

1994年、有楽製菓から

ブラックサンダーの発売は1994年です。作っているのは有楽製菓という会社で、公式のブランドサイトにも「1994年の発売以降」という書き方で記されています。

開発のきっかけは、当時の売れ筋だった「チョコナッツスリー」という商品でした。その食感をもっと重くしたものを作る、というのが出発点だったとされています。

ゼロから新しい発想を持ち込んだのではなく、手元にある商品の食感を振り切らせたところから生まれたことになります。

表示は「準チョコレート菓子」

意外に思われるかもしれませんが、この商品の種類別名称は「準チョコレート菓子」です。公式の商品ページにそう書かれています。

原材料名の先頭は「準チョコレート」で、その中身は砂糖、植物油脂、全粉乳、脱脂粉乳、ココアパウダー、カカオマス、乳糖、食塩と続きます。そのあとにココアクッキー、油脂加工食品が並びます。

日本には、カカオ分やココアバターの量で「チョコレート」と「準チョコレート」を分ける規約があります。詳しくは「チョコレート」と「準チョコレート」の違いにまとめました。

この商品の場合 意味するところ
種類別名称 準チョコレート菓子 規約上の区分
原材料の先頭 準チョコレート 量がもっとも多い
中身の構成 ココアクッキー、油脂加工食品 食感を作る部分

この区分は品質の優劣ではありません。同じ表示が使われる商品には、気泡を入れたものもあります。その例はエアロチョコレートの気泡で扱いました。

一本の中でチョコレートが担っているのは、全体をまとめて固める役割です。主役はむしろ、中に入っている固い部分のほうにあります。

もとはウェハースの会社だった

有楽製菓の沿革を見ると、始まりはチョコレートではありません。

公式の会社概要には、1955年に創業者が東京都世田谷区で加工用ウェハース製品の生産を開始したと記されています。チョコレート製品の生産が始まるのは、1959年に有楽製菓株式会社を設立してからです。

つまりこの会社は、先に「サクサクする生地」を作る技術を持っていて、あとからチョコレートに手を広げたことになります。

ブラックサンダーの食感が商品の核になっているのは、この順番と無縁ではないでしょう。チョコレートの会社が食感を足したのではなく、生地の会社がチョコレートで包んだ、という見方ができます。

ザクザクは、二種類のクッキーから

公式の商品説明には、2種類のココアクッキーの比率を見直したという記述があります。

一種類ではなく二種類を混ぜている、という点が重要です。同じ固さのものだけを入れると、噛んだときの手応えが単調になります。硬さや粒の大きさが違うものを混ぜれば、一口の中で崩れ方に段差が生まれます。

会社はこの食感を「唯一無二のザクザク感」と呼んでいます。現在のキャッチコピーは「チョコっとで、チョーごほうび」です。

板チョコのように詰まったチョコレートとは、狙っている体験がまったく違います。チョコレートの種類ごとの性格はチョコレートの種類完全ガイドで整理しました。

派生商品が増えていく

一本の商品が定着すると、次に起きるのは形の展開です。

姉妹商品としてブラックサンダーミニバーやビッグサンダーがあり、公式のブランドサイトにはレギュラーサイズのほかひとくちサイズやファミリーパックといった展開が載っています。フレーバーを変えた商品も複数あります。

大きさを変えるだけで、使われる場面が変わります。一本なら自分で食べる菓子ですが、小さくして袋に入れれば配る菓子になります。大きくすれば満足感を売る商品になります。中身の設計を変えずに、用途を増やしているわけです。

なかでも知られているのが白いブラックサンダーです。これは北海道札幌市の札幌工場で製造されるとされています。名前に「白い」と付く北海道の菓子という枠に、この商品も収まっていることになります。北海道の菓子の並びは北海道のチョコレートにまとめました。

黒い包みで全国に広がり、白い版で土産物の棚に入る。同じ食感を土台にしたまま、置かれる場所を変えているのが面白いところです。

2012年、花束の代わりに

この商品が広く知られるようになった転機は、菓子売り場の外から来ました。

2012年のロンドンオリンピック、体操個人総合で優勝した選手に対し、母親が花束の代わりにブラックサンダーを贈ったことが話題になります。これをきっかけに出荷量が急増しました。

宣伝として仕掛けたものではありません。選手の好物だったという事実が、そのまま報道された結果です。

安価な菓子が、世界一になった場面の隣に映る。この対比が強く印象に残ったのだと考えられます。

2013年、「一目で義理とわかるチョコ」

翌年から、有楽製菓は思い切った打ち出し方をします。

2013年のバレンタインシーズンから「一目で義理とわかるチョコ」というキャッチコピーを使い、義理チョコ用途を狙ったキャンペーンを展開しました。ネット上で大きな反響を呼んだことが知られています。

これは、普通の菓子メーカーがやりたがらない方向です。バレンタインの売り場は、本命のための高価な一箱を中心に組まれてきました。そこへ「うちは義理です」と名乗って入っていったわけです。

バレンタインの区分そのものについてはバレンタインチョコレート|本命・義理・自分用おすすめにまとめています。

安さを引き受けるということ

このコピーの巧みさは、弱点を隠さなかった点にあります。

安い菓子を贈ることには、気まずさがつきまといます。相手にどう思われるかが気になる。そこで「これは義理です」と商品の側が先に言ってしまえば、贈る側は言い訳をしなくてよくなります。

隠す売り方 名乗る売り方
価格への態度 触れない 前提にする
買う人の気分 選んだ理由を説明したくなる 説明しなくてよい
商品の立ち位置 本命の代わり 義理そのもの

安さを欠点として扱わず、用途の名前に変えた。これが効いたところだと考えられます。

なお、この種の割り切り方はほかの選び方にも通じます。贈る相手や場面に合わせる考え方はバレンタインにチョコ以外を贈るでも触れました。

工場は愛知と北海道にある

作られている場所も、商品の性格を映しています。

公式の会社概要によれば、本社は東京都小平市にあり、製造拠点として愛知県豊橋市の豊橋夢工場と北海道札幌市の札幌工場が挙げられています。

全国のコンビニやスーパーに安定して並べるには、量を作り続ける体制が必要です。少量を丁寧に作る工房とは、設計の考え方が正反対になります。

安く売るという方針は、作る側の規模とつながっています。価格の話は、工場の話でもあるということです。カカオ価格の上昇が製品に及ぶ経路はチョコレート値上げの理由で扱いました。

義理という言葉を引き受けた

まとめると、この商品が持っているのは、自分の立ち位置を言い切る強さです。

1994年に発売され、2012年に花束の代わりとして注目され、2013年からは義理という言葉を自ら名乗った。どれも高級さを主張する方向ではありません。

コンビニの棚には、価格帯も狙いも違うチョコレートが並んでいます。その顔ぶれはコンビニチョコレートおすすめランキングにまとめました。その中で黒い包みが担っているのは、気軽に渡せる一本という役割です。

次に手に取ったら、裏の表示を見てみてください。「準チョコレート菓子」と書かれているはずです。その一行も、この商品が何を優先してきたかを示しています。

参考文献

※商品の仕様、原材料、価格は変更されることがあります。最新の情報はメーカーの公式サイトでご確認ください。