ケーキやドーナツの上に散らしてある、細長い茶色のつぶ。チョコスプレーは、日本では飾りとして使う材料です。

ところが同じものを、主食のパンにかけて毎日食べている国があります。オランダです。しかも発明された当初、この菓子にチョコレートは入っていませんでした。

オランダでは、パンにかける

オランダ語でこれをハーゲルスラグと呼びます。

英語版の百科事典は、これを「数ミリの長さの、小さく細長い甘いチョコレートのつぶや粒で、バターを塗ったパンやラスクにふりかけるもの」と説明しています。そして「ハーゲルスラグは伝統的に、オランダ人によって朝食や昼食に食べられている」と記しています。

規模も書かれています。オランダでは、この食べ方で1日あたり推定75万個のサンドイッチが消費されるとされています。

つまり飾りではありません。主食にかける常用の食品です。日本でパンにジャムやバターを塗るのと同じ位置にあります。

オランダはココアの製法が生まれた土地でもあります。その歴史はオランダのチョコレートにまとめました。チョコレートと日常の距離が近い国だということになります。

1919年の発明に、チョコレートはなかった

由来についても記述があります。

英語版の百科事典によれば、ハーゲルスラグを作ったのは1919年、Venco というリコリス菓子の会社の責任者である B.E. Dieperink だとされています。

そして重要なのはこの一文です。チョコレートが加えられたのは1951年まで待たなければならなかった、というのです。

最初のハーゲルスラグはチョコレートではなかった。発明から三十年以上たってから、チョコレート版が登場したことになります。リコリスの会社が作ったものですから、出発点は別の味だったわけです。

いま「チョコスプレー」と呼んでいるものは、形が先にあって、中身が後から入れ替わったということになります。

日本では、飾りとして使う

日本での扱いは違います。製菓材料の棚に置かれ、ケーキやアイスの上に散らすために使われます。

共立食品の製品説明も「ケーキ、ドーナッツ、アイスなどのデコレーションをお楽しみください」という書き方で、装飾の用途を前提にしています。

オランダ 日本
置かれる場所 食品として日常の棚 製菓材料の棚
かける相手 パン、ラスク ケーキ、ドーナツ、アイス
位置づけ 主食に添えるもの 仕上げの飾り

同じ形の同じ材料が、国によって別のものとして扱われている。これがこの菓子の面白さです。

日本でパンにチョコレートを合わせる習慣がないわけではありません。チョココロネはどっちから食べるかで扱ったように、パンの中にチョコレートを入れる形は定着しています。中に入れるか、上からかけるかの違いということになります。

原材料に、カカオが入っていないものもある

ここで原材料表示を見ておきます。同じ会社の似た商品でも、中身が違います。

共立食品のミックスチョコスプレーの原材料は、砂糖、全粉乳、植物油脂、ココアバター、レシチン、香料、着色料(アカビート、カロテノイド、クチナシ、ウコン)です。

一方、同社の製菓用ミックスカラースプレーは、砂糖、ココアバター、脱脂粉乳、全粉乳、植物油脂、カカオマス、レシチン、着色料、香料となっています。

ミックスチョコスプレー 製菓用ミックスカラースプレー
ココアバター 入っている 入っている
カカオマス 入っていない 入っている
着色料 植物由来の色素 合成着色料

前者にはカカオマスが入っていません。ココアバターは入っていますが、これは色も香りもほとんど持たない油脂です。つまりカラフルなつぶのほうは、カカオの茶色い成分を使わずに作られていることになります。

この構成は、ホワイトチョコレートの考え方と同じです。カカオマスを使わずココアバターだけを使う理由はホワイトチョコレートとは?で扱いました。それぞれの成分の役割はカカオマス・ココアバター・ココアパウダーの違いとは?にまとめています。

「チョコ」と名前についていても、カカオの固形分が入っているとは限らない。パッケージを見るときは、原材料の欄を確かめるのが確実です。カカオ分による区分の話は「チョコレート」と「準チョコレート」の違いで扱いました。

商品名が揃っていない

もうひとつ気づくことがあります。「チョコスプレー」という名前の商品は、意外に少ないのです。

共立食品の製菓材料の一覧を見ると、スプレー状の商品は「トリオスプレー」「ミックスカラースプレー」「ミックスチョコスプレー」といった名前で並んでいます。「チョコスプレー」という商品名そのものは見当たりません。

つまりこれは、商品名ではなく一般的な呼び名だということになります。「スプレーチョコ」と呼ばれることもあり、言い方が定まっていません。

探すときに戸惑うのは、このためです。売り場では、形を見て判断するほうが早いかもしれません。

色と味の種類

オランダでは、種類も分かれています。

英語版の百科事典は、ダークチョコレートのもの(pure hagelslag)、白いもの(witte hagelslag)、ミルクチョコレートのもの、そして果物の風味を付けたものがあると記しています。主食にかけるものなので、味の選択肢が用意されているわけです。

近い商品としてvlokkenも挙げられています。こちらは粒ではなく薄い削り片で、同じようにパンにのせて食べます。粒か削り片かという食感の違いで、別の商品として並んでいることになります。

なお同じ資料には、ベルギーでは似た商品が俗に「ねずみの糞」と呼ばれていると書かれています。形をそのまま言ったあだ名ですが、隣国でも日常的な食品として定着していることがうかがえます。

日本の売り場では、色の違いは飾りの都合で選ばれます。味で選ぶのか、色で選ぶのか。ここでも用途の違いが表れています。チョコレートの種類ごとの性格はチョコレートの種類完全ガイドで整理しました。

パンにかけるときのこつ

試してみる場合、一つだけ気をつける点があります。バターを塗っておくことです。

英語版の百科事典の説明にも「バターを塗ったパンやラスクにふりかける」とあります。乾いたパンに直接かけると、つぶが転がり落ちます。油脂の膜があれば、そこに引っかかって留まります。

考え方はデコレーションと同じです。生クリームやアイシングの上に散らすのは、まだ固まっていない面につぶを埋めるためです。表面が乾いていれば付きません。

接着する面を用意してからかける。この一点を押さえておけば、こぼれずに食べられます。

溶けにくい理由

飾りとして使うなら、溶けないことが条件になります。生クリームの上に散らして、すぐに崩れてしまっては困ります。

原材料を見ると、その理由が見えてきます。砂糖が最初に来ていることです。量がもっとも多いのは砂糖で、油脂はその次です。

板チョコのように油脂が主体のものは、体温近くで溶け始めます。この性質はチョコレートが溶ける温度は何度?にまとめました。砂糖が中心のつぶであれば、その影響は小さくなります。

植物油脂が使われている点も関わります。油脂を替えることで、溶ける温度の性質を変えられます。同じ考え方はチョコレートソースとシロップの違いでも扱いました。かけて固まるか、かけても流れるかは、油脂の選び方で決まります。

形も効いています。細長い粒であれば、表面積に対して体積が小さくなります。小さいものは早く溶けそうに思えますが、砂糖が主体であれば形を保ちます。

かける文化と、飾る文化

まとめると、この小さなつぶには二つの顔があります。

オランダでは1919年に生まれ、1951年にチョコレートになり、いまも毎日の食卓でパンにかけられている。日本では製菓材料として棚に並び、仕上げの飾りに使われている。

どちらが本来の姿というわけではありません。同じものが別の役割を与えられているだけです。

次に製菓材料の棚で見かけたら、原材料の欄を見てみてください。カカオマスが入っているかどうかで、そのつぶの正体が変わります。そして一度、バターを塗ったパンにかけてみるのも面白いかもしれません。オランダでは、それが普通の朝食です。

参考文献

※商品の原材料や仕様は変更されることがあります。最新の情報はメーカーの公式サイトでご確認ください。