円盤状に広げたチョコレートの上に、ナッツやドライフルーツを乗せる。マンディアンは、作り方だけを見ればとても単純な菓子です。

ただ名前の意味を知ると、見え方が変わります。マンディアンとは、フランス語で托鉢修道士のこと。乗せるものの種類にも、決まった理由があります。

名前は「托鉢修道士」という意味

英語版の百科事典は、マンディアンを「ナッツとドライフルーツをちりばめたチョコレートの円盤からなるフランスの伝統的な菓子で、4つの托鉢修道会を表している」と説明しています。

托鉢修道会とは、財産を持たず施しを受けて暮らすことを原則とした修道会です。乗せる4種類が、それぞれ別の修道会に対応しているというのが、この菓子の名前の由来です。

菓子に宗教の由来がある例は珍しくありません。フランスの菓子文化の全体像はフランスチョコ(ショコラ)の特徴で扱いました。

4つのトッピングと4つの修道会

具体的な対応も記されています。英語版の百科事典によると、次のようになります。

乗せるもの 対応する修道会 資料に書かれた衣の色
レーズン アウグスチノ会 黒
ヘーゼルナッツ カルメル会 茶と白
干しいちじく フランシスコ会 茶
アーモンド ドミニコ会 白

4種類という数は、修道会の数から来ています。適当に見栄えのよいものを4つ選んだのではなく、対応させるべき相手が4つあったということになります。

色で対応させているのが、この見立ての面白いところです。素材の色が、修道士の衣の色に似ている。それだけの関係ですが、だからこそ材料が固定されました。

ナッツやドライフルーツをチョコレートに合わせる菓子はほかにもあり、「プラリネ」と「トリュフ」の違いで扱った一粒チョコレートとは、構造がまったく違います。包まずに乗せるのがマンディアンです。

衣の色は、資料によって違う

ここで一つ注意が必要です。衣の色の説明は、資料によって食い違います。

英語版の百科事典は、アウグスチノ会を黒、フランシスコ会を茶としています。一方、日本語で書かれた製菓の解説では、アウグスチノ会を濃い紫、フランシスコ会を灰色とするものが見られます。

英語版の百科事典 日本語の製菓解説に多い記述
アウグスチノ会 黒 濃い紫
フランシスコ会 茶 灰色

素材と修道会の組み合わせは一致していますが、色の呼び方が揃っていません。修道会の衣は時代や地域によって違いがあるため、どれか一つが正しいと決めるのは難しいところです。

この記事では両方を並べておきます。由来として語られている話の骨格は同じで、色の細部に幅があると理解するのが実際に近いでしょう。

円盤という形

形にも意味があります。円盤状であることです。

チョコレートを溶かして紙の上に落とせば、自然に丸く広がります。型は必要ありません。道具を使わずに作れる形だということになります。

そして平らであれば、乗せたものが見えます。包んでしまえば中身は分かりませんが、円盤なら4種類が並んでいることが一目で伝わります。由来を説明するための形としても理にかなっています。

固まるまでに乗せる必要があるため、作業には手早さが要ります。溶かしたチョコレートを扱うときの温度の話は「テンパリング」とは?にまとめました。表面を艶よく仕上げたい場合は、この工程が関わってきます。

クリスマスの菓子

作られる時期にも特徴があります。英語版の百科事典は、マンディアンがおおむねクリスマスの時期に作られると記しています。

ドライフルーツとナッツは保存がきく素材です。冬に手に入る材料で作れるという条件は、季節の菓子として都合がよいものです。

クリスマスのチョコレート菓子の全体像はクリスマスチョコ徹底ガイドにまとめました。贈り物として扱いやすいのは、日持ちする素材でできていることも理由のひとつです。

似た形の菓子との違い

円盤にナッツを乗せると聞くと、他の菓子を思い浮かべる人もいるはずです。整理しておきます。

オランジェットは、オレンジピールをチョコレートで覆ったものです。主役は果物で、チョコレートは外側にあります。

ロシェはフランス語で岩の意味で、ナッツでゴツゴツした表面を作ったものです。形を岩に見立てています。

マンディアンは、チョコレートが土台で、その上に素材を並べる形です。この三つはよく似た材料を使いながら、主役と構造が違います。それぞれの位置づけはチョコレートの種類完全ガイドで整理しました。

主役 構造
マンディアン チョコレートの円盤 平らな土台に乗せる
オランジェット オレンジピール 果物を覆う
ロシェ ナッツの塊 岩のような形にまとめる

家庭で作りやすい菓子でもある

この菓子が製菓の入口として紹介されることが多いのは、工程が少ないからです。

チョコレートを溶かし、紙に落として広げ、素材を乗せて固める。型も絞り袋も要りません。失敗する余地が少ないということになります。

使うチョコレートによって仕上がりは変わります。製菓用のものと市販の板チョコの違いは「クーベルチュール」とは?普通の板チョコとの違いで扱いました。艶や口溶けを求めるなら、この選択が効いてきます。

素材を4種類に限る必要はなく、いまでは自由な組み合わせで作られています。ただし由来を踏まえると、4種類という数には意味があったことになります。

素材を「乗せる」ことの効き方

包まずに乗せる、という構造には実際の利点があります。

まず食感が混ざらないことです。ナッツをチョコレートの中に練り込むと、全体が均一な味になります。上に乗せれば、噛んだときにナッツはナッツとして、チョコレートはチョコレートとして残ります。境目があるほうが、素材の輪郭がはっきりします。

次に量を目で確かめられることです。中に入っているものは見えませんが、乗っているものは数えられます。贈り物として渡すとき、見ただけで中身が伝わるのは利点になります。

一方で弱点もあります。乗っているものは取れます。運んでいるあいだに外れることがあり、包み方に気をつける必要があります。チョコレートを包むときの考え方はチョコレートのラッピングにまとめました。

見せるために乗せ、乗せたから外れやすい。構造の利点と弱点が同じ場所から出ていることになります。

ドライフルーツを使うという選択

4種類のうち2つがドライフルーツである点にも、理由があると考えられます。

生の果物をチョコレートに乗せると、水分が問題になります。チョコレートは水分を嫌う食品で、混ざると分離したり、日持ちが短くなったりします。乾かした果物であれば、その心配は小さくなります。

日持ちする素材だけで組み立てられている。これは保存食としての性格にもつながります。修道会に由来する菓子であれば、贅沢な生菓子ではなく、置いておける形であるほうが筋が通ります。

チョコレートと水分の関係は「ガナッシュ」とは?生チョコとの違いを解説で扱いました。生クリームを加えたものが日持ちしないのは、この性質によるものです。

乾いた素材と油脂だけの組み合わせは、菓子としてはもっとも安定した形のひとつだと言えます。

意味を知って食べる

まとめると、マンディアンは名前に由来を抱えた菓子です。

托鉢修道士を表す名前を持ち、4種類の素材が4つの修道会に対応している。衣の色をめぐる記述には幅がありますが、対応そのものは一貫して語られてきました。

作り方は単純で、家庭でも作れます。それでもなぜ4種類なのかという問いには、数百年前の修道会にまでさかのぼる答えがあるわけです。

次に見かけたら、乗っているものを数えてみてください。4種類そろっていれば、それは由来に沿った形ということになります。

参考文献

※修道会の衣の色については資料によって記述が異なります。本文では複数の説を併記しました。