チョココロネの話題になると、たいてい同じ議論が始まります。太いほうから食べるか、細いほうから食べるか。

好みの問題として片づけられがちですが、じつはこの菓子パンの構造を見ると、どちらが理にかなっているかははっきりします。そしてその構造を追いかけていくと、チョココロネが日本で生まれたパンであるという、あまり知られていない事実に行き当たります。

クリームは、どこに溜まっているか

まず前提を確認します。チョココロネは、細長く伸ばした生地を円錐形の型に巻きつけて焼き、焼き上がったあとで中の空洞にチョコクリームを詰めたものです。

ここが重要な点です。クリームは太いほうの口から注入されます。細い先端まできれいに充填するのは難しく、多くの商品では先端の1〜1.5センチほどにクリームが入っていません。

つまり構造上、太いほうにクリームが集中し、細いほうはパンだけという偏りが最初から存在します。

だから、細いほうから食べるほうが理にかなう

この偏りを踏まえると、答えは出ます。

細いほうから食べ始めると、進むにつれてクリームの量が増えていきます。最初はパンの風味、中盤からクリームが加わり、最後にもっとも濃い部分が来る。だんだん盛り上がる構成になります。

逆に太いほうから食べると、最初にクリームの山場が来て、最後はパンだけが残ります。尻すぼみになるうえ、食べ終わりが乾いた印象になりがちです。

食べ始める向き 味の進み方 終わり方
細いほうから 薄い → 濃い クリームで締まる
太いほうから 濃い → 薄い パンだけが残る

もっとも、太いほうから食べる人のほうが多いとされています。持ちやすさと、口を大きく開けずに済むという実用面が効いているのでしょう。理屈で言えば細いほうからですが、食べやすさを取るなら太いほうから、というのが公平なところです。

なお、細いほうから食べる場合は先端が折れやすいので、下から支えるように持つと崩れにくくなります。

日本で生まれたパンだった

さて、ここからが本題かもしれません。チョココロネは日本で考案された菓子パンです。フランスやイタリアの伝統菓子だと思っている方も少なくありませんが、そうではありません。

日本のパン屋には、あんパン、クリームパン、メロンパンなど、国内で独自に発展した菓子パンの系譜があります。チョココロネもその一員です。西洋から入ってきたパンという素材を、日本の菓子の感覚で作り替えた結果として生まれています。

考案者は分かっていない

いつ、誰が作ったのか。じつは特定されていません。明治時代にはすでにあったとも言われますが、確たる記録は残っていないようです。

ただし手がかりはあります。1939年(昭和14年)刊行の『製パン教程』に、「チョコレートスネール」という名前で、チョココロネに相当するパンが載っています。スネールは英語で巻貝のこと。あの渦巻きの形を、そのまま名前にしたわけです。

少なくとも戦前には、業界の教本に載る程度には一般的なパンだったことが分かります。

「コロネ」という名前はどこから来たか

日本生まれのパンでありながら、名前は外来語に見えます。由来については二つの説が知られています。

  • フランス語の corne(コルヌ):角(つの)を意味する
  • 英語の cornet(コルネット):金管楽器のこと

どちらも先が細く広がった円錐形を指している点で共通しています。楽器のコルネットも、朝顔状に開いた管の形をしています。形から名前を取ったという点では、スネール(巻貝)という呼び名と発想が同じです。

面白いのは、日本で生まれたパンに外来語の名前がついていることです。当時の感覚として、西洋風の菓子パンには西洋風の名前がふさわしいと考えられたのかもしれません。あんパンやメロンパンとは違う名づけ方をされたところに、このパンの立ち位置が表れています。

中身はチョコレートなのか

もう一点、確認しておきたいことがあります。チョココロネに詰まっているものは、チョコレートそのものではありません。

多くの場合、チョコ風味のカスタードクリームか、それに近いものです。板チョコを溶かして詰めたのでは冷えると固まってしまい、パンと一緒に噛んだときの一体感が出ません。やわらかさを保つために、クリームとして設計されています。

パンのコーティングや菓子パン向けのチョコレートには、常温で扱いやすい配合のものが使われることもあります。この考え方は「チョコレート」と「準チョコレート」の違いで扱っている、用途に合わせた設計の話とつながります。

チョコレートとココアの関係を整理したい場合はチョコレートとココアの違いも参考になります。

巻いて焼くという作り方の意味

チョココロネの形は、見た目の面白さだけで選ばれたわけではありません。作り方から必然的に生まれた形です。

細長く伸ばした生地を円錐形の芯に巻きつけて焼くと、生地は層になります。焼き上がって芯を抜けば、中に空洞ができる。この空洞にクリームを詰めるという段取りです。

ここには利点があります。クリームを焼かずに済むことです。生地とクリームを一緒に焼くと、クリームの水分が飛び、風味も変わります。焼いたあとで詰める方式なら、クリームは作りたての状態を保てます。クリームパンのように包んで焼くものとは、設計思想が違います。

同時に弱点もあります。空洞に詰めるという構造上、量を均一にしにくいのです。冒頭で触れた「先端までクリームが届かない」という現象は、この作り方から来ています。形の面白さと充填のむずかしさが、同じ理由から生まれているわけです。

渦巻きは、ほぐれるためにある

もう一点、巻き構造には食感上の役割があります。

層になっているため、手でつまむとらせん状にほどけるのです。ちぎりながら食べられるパンは、ひと口の大きさを自分で決められます。丸いパンにはできない食べ方です。

このほぐれる性質は、クリームとの相性にも効いています。層のあいだにクリームが入り込むため、パンとクリームが完全に分かれた状態ではなく、境目が入り混じった状態で口に入ります。巻いてあること自体が、味の混ざり方を決めているのです。

渦巻きの形は、名前の由来になった巻貝や金管楽器の見た目とも重なりますが、機能としては別の意味を持っていたことになります。

買うときに見ておきたい点

同じチョココロネでも、店によって性格がずいぶん違います。次の三点を見ると、好みのものを選びやすくなります。

生地の巻きの細かさ。巻きが細かいものは層が多く、ほぐれるような食感になります。粗いものはパンとしての食べごたえが出ます。

クリームの量と入り方。断面を見られる商品なら、どこまでクリームが届いているかを確認できます。先端まで入っているものは、細いほうから食べても最初から濃く感じられます。

表面の処理。チョコレートがけがされているものと、生地のままのものがあります。前者は外側からもチョコレートの風味が来るため、全体として甘さが強く出ます。

コンビニ各社も定番として置いており、ファミマのチョコレートの選び方のような身近な棚にも並んでいます。

論争の答えは、構造の中にあった

太いほうか細いほうか。この問いは長く趣味の問題として扱われてきましたが、クリームが太いほうから注入されるという製法を知れば、味の設計としてどちらが自然かは見えてきます。

とはいえ、食べ方は自由です。理屈を知ったうえで、あえて太いほうから食べるのも一つの選択です。大事なのは、なぜそういう形をしているのかを知ったうえで選べることでしょう。

戦前の教本に巻貝の名で載り、外来語の名を与えられ、いまもコンビニの棚に並んでいる。ひとつの菓子パンが百年近く形を変えずに残っているというのは、それだけでちょっとした事件です。

チョコレートを使った菓子パンには、もう一つ有名な系統があります。パン・オ・ショコラとチョコクロワッサンの違いで扱うクロワッサン生地のパンです。こちらはフランス生まれで、しかも国内で呼び名が割れているという事情を抱えています。日本発祥のコロネとは、成り立ちがちょうど対照的です。

参考文献

※商品の仕様は店舗やメーカーによって異なります。クリームの量や配合は商品ごとにご確認ください。