細長いビスケットの溝に、チョコレートが流し込まれている。チョコリエールは、そういう形をした菓子です。
板チョコをビスケットにのせたものでも、チョコレートでビスケットを覆ったものでもありません。器を焼いてから、中身を注ぐ。この作り方が、この菓子の性格をほとんど決めています。
1977年から続いている
チョコリエールが発売されたのは昭和52年、西暦でいえば1977年です。半世紀近く売られ続けていることになります。
ブルボン自身も、この商品を「超ロングセラーチョコビスケット」と紹介しています。長く売れている理由として挙げているのは、ビスケットとチョコレートの絶妙なバランスが飽きずに食べられること、そして素朴ながらも確実な美味さです。
派手さで売れている菓子ではない、という自己認識がそこにあります。実際、この商品には季節限定の華やかさも、驚くような仕掛けもありません。にもかかわらず棚から消えない。その理由を、作り方の側から見ていきます。
「充填する」という作り方
公式の商品説明はこう書かれています。小麦全粒粉を使ってじっくりと香ばしく焼きあげたスリムなタルト型のダイジェスティブビスケットに、マイルドなチョコレートを充填したチョコビスケット。
注目したいのは「充填」という言葉です。チョコレートをかけるのでも挟むのでもなく、注ぎ込んでいる。
かける場合、チョコレートは表面に出ます。手に持てば指が触れ、溶ければ手が汚れます。挟む場合は二枚のビスケットが必要で、割れやすくなります。
充填であれば、チョコレートは溝の中に収まります。外側は焼いたビスケットのまま、内側だけがチョコレートという構造になり、手で持っても指が汚れにくい。細長い形も相まって、袋から出してそのままつまめます。
タルト型は、器である
この構造を成り立たせているのが、タルト型という形です。
タルトはもともと、縁のある生地に中身を詰める菓子です。生地が器になり、そこへ具を注ぐ。チョコリエールは、その考え方を棒状の焼き菓子に持ち込んだものだと言えます。
器として使うには、ビスケット側に条件が要ります。流し込んだチョコレートを受け止める強度と、焼き上がりの形が安定していることです。小麦全粒粉を使ってじっくり焼くという作り方は、香ばしさのためだけではなく、この強度のためでもあると読めます。
菓子の構造としては、チョコレートで外を覆うチョコレートクランチはなぜ土産の定番なのかのような固め方とは、ちょうど裏返しの関係にあります。片方は中身を守るために外を覆い、もう片方は外を焼き固めて中身を抱えます。
原材料を見ると、板チョコとは違う
原材料の並びを見ると、もう少し踏み込んだことが分かります。
公式に記載されている原材料は、小麦粉、砂糖、ショートニング、植物油脂、全粉乳、小麦全粒粉、カカオマス、ココアパウダー、食塩、脱脂小麦胚芽、膨脹剤、乳化剤、香料、着色料です。
カカオマスとココアパウダーは入っています。一方で、ココアバターの記載はありません。代わりに並んでいるのがショートニングと植物油脂です。
板チョコの多くはココアバターを主な油脂として使います。ココアバターは体温付近で溶ける性質を持っており、それが口溶けの良さにつながります。裏を返せば、気温が上がると柔らかくなりやすいということでもあります。
袋菓子として常温の棚に並び、持ち歩かれることを前提にするなら、扱いやすい油脂を選ぶ理由があります。用途に合わせてチョコレートの設計を変えるという考え方は、「チョコレート」と「準チョコレート」の違いで扱ったとおりです。板チョコと同じものを詰めているわけではない、という点は知っておくと面白いところです。
似た構造の菓子と比べてみる
ビスケットとチョコレートを組み合わせた菓子は数多くありますが、組み合わせ方はいくつかの型に分かれます。
| 付け方 | どういう形か | 手に触れるか |
|---|---|---|
| かける | 外側をチョコレートで覆う | 直接触れる |
| 挟む | 二枚の生地のあいだに入れる | 触れにくい |
| 充填する | 焼いた器の溝に注ぐ | 触れにくい |
かける型は、チョコレートの量を多くでき、見た目も華やかになります。そのかわり表面に出ているぶん、手に取れば指が触れます。シリアルを固めた菓子の構造はチョコレートクランチはなぜ土産の定番なのかで扱いました。
挟む型は、二枚の生地でチョコレートを守る形です。噛んだときに生地が二度来るので、食感の段階が増えます。ビスケットでマシュマロを挟んだ菓子についてはチョコマシュマロはなぜ合うのかで取り上げています。
充填型は、生地そのものを器にします。三つの中でもっとも部品が少なく、形も安定します。チョコリエールが細長い形を保てているのは、この方式だからです。
全粒粉という選択
もう一点、生地に使われている材料にも触れておきます。公式の説明では、ビスケットに小麦全粒粉が使われ、ダイジェスティブビスケットと表記されています。
全粒粉は小麦を丸ごと挽いた粉です。精製した小麦粉に比べて香ばしさが出やすく、色も濃くなります。チョコレートの甘さに対して、生地の側にも香りを持たせるという狙いが読み取れます。
もし生地が甘いだけのビスケットであれば、チョコレートと合わせたときに甘さが重なります。香ばしさという別の軸を生地に持たせることで、全体の印象が単調にならない。メーカーが挙げている「飽きずに食べられる」という理由は、この設計とつながっていると考えられます。
2本ずつ包まれている意味
もうひとつ、包装の形にも意図があります。
この商品の内容量は14本(2本×7袋)で、栄養成分は2本×1袋(標準15.0g)当りという単位で表示されています。つまりメーカーは、2本をひとまとまりとして扱っています。
袋のまま全部を開けて置いておく形ではなく、小分けの袋を必要なぶんだけ開ける形です。菓子が湿気にさらされる時間が短くなり、ビスケットの食感が保たれます。
食べる側にとっては、区切りがあることで量を決めやすくなります。「一袋だけ」という終わり方ができる。手が止まらなくなりがちな菓子において、これは小さくない設計です。
飽きないことが、いちばん難しい
菓子の世界では、強い個性を持った商品ほど早く飽きられる傾向があります。印象が強い分、何度も食べたいとは思いにくくなるからです。
チョコリエールが半世紀近く残っているのは、その逆を行っているからでしょう。香ばしいビスケットと、控えめな甘さのチョコレート。どちらも主張しすぎず、噛むたびに両方が混ざる。メーカー自身が「飽きずに食べられる」ことを理由に挙げているのは、それが狙いだったことの表れだと思われます。
次に手に取ったら、断面を見てみてください。ビスケットの溝にチョコレートが収まっている様子が見えるはずです。あの一本の形は、半世紀前に決まった設計のまま続いています。
半世紀のあいだに、菓子売り場の顔ぶれは大きく入れ替わりました。その中でチョコリエールが同じ形のまま残っているのは、流行に乗らなかったからでもあります。器を焼いて中身を注ぐという作り方は、はじめから流行とは別のところで決まっていたのでしょう。
棚に並ぶ菓子の多くは、数年で姿を変えていきます。変えないという判断を半世紀続けることは、新しいものを出し続けることと同じくらい難しいはずです。
同じブルボンの商品では、ウエハースで包む形もあります。エリーゼの構造とチョコ・ホワイトの違いにまとめました。
参考文献
※商品の仕様や原材料は変更されることがあります。最新の情報はブルボンの公式サイトでご確認ください。
