抹茶チョコレートは、いまではどこのコンビニにもあります。ただ、その「濃さ」を意識して選んだことのある人は、そう多くないはずです。

静岡に、抹茶の濃さを7段階に分けて売っている店があります。丸七製茶が手がける「ななや」です。同じ抹茶チョコレートを、濃度違いで並べる。お茶を扱う会社ならではの発想がそこにあります。

お茶屋が、チョコレートを作った

ななやを運営する丸七製茶は、静岡県藤枝市に本社を置くお茶の会社です。藤枝も、牧之原も、静岡も、日本有数の茶の産地として知られる土地です。

お茶の会社がチョコレートを作るというのは、考えてみると自然な流れでもあります。抹茶を使った菓子を作るとき、いちばん難しいのは抹茶そのものの質と量です。茶を扱う会社であれば、そこを自前で調整できます。

菓子メーカーが抹茶を仕入れて使うのとは、出発点が逆になります。チョコレートに抹茶を足すのではなく、抹茶をどう見せるかを先に決めて、チョコレートを土台に使う。段階分けという発想は、この順番から出てきたものだと考えられます。

濃さを7段階に分けるという発想

ななやの抹茶チョコレートは、抹茶の濃さによって7段階に分かれています。

普通の商品なら、いちばんおいしいと判断した濃さをひとつ決めて売ります。段階に分けるというのは、その判断を客の側に渡すということです。

これは、濃さの好みが人によってはっきり違うことの裏返しでもあります。抹茶らしい苦みを求める人もいれば、ミルクのまろやかさの中に香りが立つくらいがよいという人もいます。ひとつに決めれば、どちらかは必ず外れます。

段階があると、選び方そのものが変わります。「抹茶チョコが好き」ではなく、「この濃さが好き」と言えるようになる。自分の好みを数字で言語化できるのは、味の世界ではなかなかない体験です。

濃度を軸にする商品 ひとつの味に決める商品
選ぶ基準 自分の好みの濃さ 作り手が決めた一点
買う人の役割 選び、比べる 受け取る
外れにくさ 好みに合わせられる 合う人と合わない人が出る

カカオの含有率によってチョコレートの性格が変わることは広く知られています。濃度を軸にした商品設計という点で、抹茶とカカオは同じ考え方の上にあります。チョコレート側の見方はチョコレートの種類完全ガイドにまとめました。

パリのサロン・デュ・ショコラで初披露された

この商品は、国内だけで評価されたわけではありません。

丸七製茶は「プレミアム抹茶セブン」を、2019年10月30日からパリで開催されたSALON DU CHOCOLAT PARISで初披露しています。世界中のショコラティエが集まる催事の場に、静岡のお茶屋が抹茶のチョコレートを持ち込んだことになります。

その後、国内では1月18日にお茶チョコビレッジ、1月19日からななや藤枝店・静岡店・青山店・京都三条店、1月22日から浅草のコラボショップと松坂屋静岡店で、順次発売されました。価格は1,800円(税別)です。

パリで先に見せてから国内で売り出すという順番も、この商品の性格を表しています。抹茶を日本の内側の素材としてではなく、世界のチョコレートの文脈に置いたということです。

抹茶とカカオは、似た性質を持っている

そもそも抹茶とチョコレートは、なぜこれほど馴染むのでしょうか。

両方に共通しているのは、苦みと渋みを持ちながら、香りが主役であるという点です。抹茶の苦みは飲み慣れない人には強く感じられますが、慣れると香りのほうを追うようになります。カカオも同じで、カカオ分の高いチョコレートほど、甘さより香りと苦みが前に出ます。

もうひとつは、粉として混ざることです。抹茶は茶葉を挽いた粉なので、チョコレートに混ぜれば全体に行き渡ります。茶葉を煮出して香りを移す方法と違い、素材そのものが最後まで残ります。

濃さの段階を作れるのも、この性質があってこそです。混ぜる量を変えれば、味と色が連続的に変わっていきます。粉であることが、7段階という設計を可能にしているわけです。

薄いほうから食べる

段階の違うものが手元にあるなら、食べる順番にも意味が出てきます。

基本は薄いほうから濃いほうへです。濃いものを先に食べると、舌がその強さに慣れてしまい、そのあとの薄いものが物足りなく感じられます。逆に薄いほうから進めば、一段ごとの差がはっきり分かります。

これはチョコレートの食べ比べでも同じで、チョコレートに合う飲み物でも順番の話として触れました。軽いものから重いものへという順序は、味を比べるときの基本になります。

間に水を挟むと、さらに差が分かりやすくなります。前の味を引きずったままでは、せっかく段階に分かれていても違いを拾えません。

産地の近さが効いている

静岡という場所も、この商品にとっては意味があります。

抹茶は、時間がたつほど香りが落ちていく素材として知られています。産地に近い場所で加工できることは、それだけで有利に働きます。お茶を扱う会社が自社で菓子まで手がける形は、この点でも理にかなっています。

チョコレートの世界では、カカオ豆の仕入れから板チョコまでを一貫して行う作り手が注目されてきました。その考え方はBean to Barチョコレートとは?で扱っています。素材の川上から製品まで通して手がけるという点で、お茶屋が作る抹茶のチョコレートは、これと似た位置にあります。

ジェラートから始まっている

ななやの名前を先に知られるようにしたのは、じつはチョコレートではありません。抹茶のジェラートです。丸七製茶は自社の商品を「世界でいちばん濃い抹茶ジェラート」と紹介しています。

ここでも使われているのが、濃さで段階を分けるという考え方です。冷たい菓子で先に試された発想が、そのままチョコレートへ移されたことになります。

同じ素材でも、ジェラートとチョコレートでは条件が違います。ジェラートは水分と乳脂肪の中に抹茶を溶かし込み、冷たい状態で食べます。チョコレートは油脂の中に粉として抹茶を抱かせ、常温で固めます。溶かす相手も、食べるときの温度も違う。それでも濃さの段階という軸だけは共通しています。

言い換えれば、この店が売っているのは抹茶の菓子というより、抹茶の濃さそのものなのかもしれません。形を変えても軸が動かないのは、そういうことだと考えられます。

飲むお茶と、食べるお茶

日本茶とチョコレートの関係は、合わせて楽しむ形でも語られてきました。緑茶や抹茶、ほうじ茶それぞれの相性についてはチョコレートと日本茶のペアリングにまとめています。

ななやの商品は、その一歩先にあります。飲み物として隣に置くのではなく、チョコレートの中に抹茶を入れてしまう。合わせるのではなく、ひとつにする方向です。

濃さを選べるということは、その一体化の度合いを自分で決められるということでもあります。薄めを選べばチョコレートが主役になり、濃いものを選べば抹茶が前に出ます。同じ商品名で、主役が入れ替わる。そういう並べ方をした菓子は、そう多くありません。

次に抹茶チョコレートを手に取るときは、濃さという軸があることを思い出してみてください。自分がどのあたりを好きなのか、意外と考えたことがないはずです。

ひとくちに抹茶チョコレートといっても、その中にはまだ試していない濃さが残っているかもしれません。濃度という軸を知っておくと、売り場の見え方が少し変わります。

参考文献

※商品のラインナップや価格、取扱店舗は変更されることがあります。最新の情報は公式サイトでご確認ください。