チョコレートリキュールという言葉を調べると、二種類の説明が出てきます。片方は甘いお酒の話、もう片方はチョコレートの原料の話です。

矛盾しているように見えますが、どちらも間違いではありません。「リキュール」という語が、二つの意味で使われているからです。この記事では、その二つを切り分けます。

英語の「チョコレートリカー」は、お酒ではない

先に、混乱のもとになっているほうから片づけます。

英語には chocolate liquor という言葉があります。これは日本語に訳すと「チョコレートリカー」ですが、お酒ではありません。指しているのは、液体または半固体の状態にある純粋なカカオのことです。

英語版の百科事典には、はっきりこう書かれています。この文脈での liquor という語はアルコールを指すのではなく、「液体」あるいは「流動体」を意味する、と。

古い英語では、liquor は単に「液体」を表す言葉でした。煮汁や浸出液を指す使い方が残っており、chocolate liquor もその系統にあります。溶けて流れる状態のカカオ、というほどの意味です。

それは日本語でいう「カカオマス」

では chocolate liquor が具体的に何を指すかというと、日本の製菓でカカオマスと呼ばれているものにあたります。

作り方も一致します。発酵させ、乾燥させ、焙煎したカカオ豆の胚乳を、皮から分けて挽く。すりつぶしていくと細胞からココアバターが出て溶け、ペースト状になり、やがて流れる液体になります。

英語では cocoa liquor、cocoa paste、cocoa mass といった呼び方も使われます。つまり同じものに複数の名前があり、そのうちのひとつが紛らわしい語だったということです。

カカオマスがチョコレートの中で果たす役割はカカオマス・ココアバター・ココアパウダーの違いとは?にまとめました。

言葉 指しているもの アルコール
chocolate liquor(英語) カカオマス。液体状の純粋なカカオ 含まない
カカオリキュール(日本語) カカオ豆を使った甘いお酒 含む
チョコレートリキュール(日本語) チョコレート風味の甘いお酒 含む

同じ「リキュール」でも、英語と日本語で指すものが逆になっている。製菓のレシピと酒の話が混ざると混乱するのは、このためです。

なぜ挽くと液体になるのか

カカオを挽いただけで流れるようになる、というのは不思議に思えるかもしれません。種を挽けば普通は粉になります。

理由は、カカオ豆の中身の半分以上が脂肪であることにあります。明治の解説によれば、ココアバターはカカオニブに50から57パーセント含まれ、標準的には約55パーセントとされています。

つまりカカオニブは、半分以上が油脂の塊です。挽いて細胞を壊せば、その脂肪が出てきます。出てきた脂肪が残りの固形分を包み込むので、全体が流れる状態になります。粉と油が別々に出てくるのではなく、はじめから混ざった液体になるわけです。

もうひとつ関わるのが温度です。ココアバターの融点は33.8℃とされています。体温より少し低い温度で、すりつぶすときの摩擦熱があれば十分に溶けます。特別に加熱しなくても液体になるのは、この低さのためです。

「液体のカカオ」という呼び名は、比喩ではなく状態をそのまま指している。chocolate liquor という言葉が残ってきた理由が、ここにあります。

原材料表示に出てくる「カカオマス」

日本の商品で liquor という語を見ることはありませんが、カカオマスという表記は原材料欄でよく見かけます。

チョコレートの原材料は、多いものから順に書かれる決まりになっています。そこに砂糖より先にカカオマスが来ていれば、カカオのほうが多い配合だと読めます。

また日本には、カカオ分の量によって「チョコレート」と「準チョコレート」を分ける規約があります。カカオマスがどれだけ入っているかは、この区分にも関わります。詳しくは「チョコレート」と「準チョコレート」の違いにまとめました。

原材料表示を読むとき、カカオマスは英語の chocolate liquor と同じものを指している。海外のレシピと日本の表示を行き来するときは、この対応を覚えておくと迷いません。

日本語の「カカオリキュール」はお酒

一方、日本語でカカオリキュールやチョコレートリキュールと言えば、これはお酒のことです。

一般的には、カカオ豆を焙煎して砕き、蒸留酒に漬け込んで香りを移したものとされます。そこへ糖類を加えて甘く仕上げます。リキュールは蒸留酒に香りや甘みを加えた酒の総称なので、その一種ということになります。

色の違いで分かれることもあります。無色透明のものと、茶色く色づけされたものです。前者は蒸留したままで見た目が澄んでおり、後者はカラメルなどで色をつけ、バニラなどの香りを足したものが多いとされます。

カクテルの材料として使われることが多く、そのまま少量を食後に飲む形もあります。詳しい銘柄や飲み方は酒類の専門的な情報にあたってください。

洋酒入りチョコレートとは、また別

紛らわしい言葉がもうひとつあります。洋酒入りチョコレートです。

これはチョコレートの中に酒を入れた菓子で、酒の側にチョコレートの風味を足したリキュールとは方向が逆になります。日本で親しまれている商品についてはロッテ ラミーとバッカスの違いで扱いました。

主役 形
チョコレートリキュール 酒 飲み物
洋酒入りチョコレート チョコレート 菓子

同じ「チョコレートと酒」の組み合わせでも、どちらを土台にするかで別の商品になります。

なお、ガナッシュに洋酒を加える手法は製菓でも一般的です。加えるタイミングによって香りの残り方が変わります。この点は「ガナッシュ」とは?生チョコとの違いを解説で触れました。

紛らわしい言葉は、ほかにもある

カカオをめぐる言葉には、似たつまずきがいくつかあります。

カカオとココア。もとは同じ豆を指しますが、日本では原料に近い側をカカオ、粉にして飲む側をココアと呼び分ける傾向があります。厳密な線引きがあるわけではなく、慣習に近いものです。

クーベルチュール。製菓用のチョコレートとして知られていますが、これも言葉だけでは中身が分かりません。何が普通の板チョコと違うのかは「クーベルチュール」とは?普通の板チョコとの違いで扱いました。

こうした言葉は、どれも由来のある呼び名が、別の文脈に持ち込まれて意味がずれたものです。chocolate liquor の場合は、古い英語の語法がそのまま残ったために、現代の読み手が誤解するという形になりました。

言葉を疑うきっかけは、たいてい「意味が通らない」と感じた瞬間です。製菓のレシピにお酒が出てくるのは変だと思えたなら、そこで調べれば行き違いは避けられます。

飲むか、食べるか、混ぜるか

チョコレートと酒の関わり方は、大きく三通りあります。

飲む。チョコレート風味のリキュールを、そのまま、あるいはカクテルにして味わう形です。

食べる。酒を閉じ込めたチョコレート菓子を口にする形です。

合わせる。チョコレートと酒を別々に用意し、一緒に味わう形です。ウイスキーとの組み合わせはチョコレートとウイスキーの最強ペアリングに、ワインについてはチョコレートとワインのペアリングにまとめています。

どれもカカオとアルコールの相性を利用したものですが、体験としては別物です。

言葉のねじれを知っておく

まとめると、押さえておくべきことは一つです。英語の chocolate liquor はお酒ではなく、カカオマスのこと。liquor が「液体」を意味する古い語法から来ています。

海外のレシピや原料表示を読むとき、この一語でつまずくことがあります。アルコールが入っていると勘違いして避けてしまう、あるいは逆に酒だと思って探してしまう。言葉のねじれを知っているだけで、こうした行き違いは防げます。

チョコレートをめぐる用語には、似た紛らわしさがいくつもあります。気になったときは、原材料表示と原語の両方を確かめてみてください。

参考文献

※お酒に関する記述は一般的な説明です。商品ごとの原料や度数は各メーカーの表示をご確認ください。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。