普段何気なく食べているチョコレート。実は、カカオ豆から板チョコになるまでに約12の工程を経ていることをご存知ですか?
収穫されたカカオ豆は、発酵、乾燥、焙煎、コンチング、テンパリング…と、長い旅を経てようやく私たちの手元に届きます。この記事では、カカオ農園から工場まで、チョコレートができるまでの全工程を図解でわかりやすく解説します。
各工程の役割を知れば、いつものチョコレートがもっと美味しく感じられるはずです。
チョコレートができるまでの全体像

カカオ豆から板チョコまで12の工程
チョコレートは、以下の12の工程を経て作られます。
| No. | 工程名 | 場所 | 概要 |
|---|---|---|---|
| 1 | 収穫 | 農園 | カカオポッドを手作業で収穫 |
| 2 | 発酵 | 農園 | 3〜7日間かけて香りの素を生成 |
| 3 | 乾燥 | 農園 | 7〜15日間天日干し |
| 4 | 選別 | 工場 | 不良豆・異物を除去 |
| 5 | 焙煎 | 工場 | 100〜140℃で香りを引き出す |
| 6 | 分離 | 工場 | 殻とカカオニブに分ける |
| 7 | 磨砕 | 工場 | すり潰してカカオマスに |
| 8 | 混合 | 工場 | 砂糖・ココアバター等を配合 |
| 9 | 微細化 | 工場 | 粒子を20ミクロン以下に |
| 10 | コンチング | 工場 | 24時間以上練り上げる |
| 11 | テンパリング | 工場 | 結晶を安定させる温度調整 |
| 12 | 成型・包装 | 工場 | 型に流して固め、熟成 |
Bean to Barチョコレートの場合、カカオ豆から板チョコになるまで約2週間かかります。
「農園」と「工場」の2つのステージ
チョコレートの製造は、大きく2つのステージに分けられます。
農園(カカオ生産国)での工程:
- 収穫、発酵、乾燥
- 主にアフリカ、中南米、東南アジアの赤道付近
工場(チョコレートメーカー)での工程:
- 選別から成型・包装まで
- 日本を含む世界各地のメーカー
発酵と乾燥がカカオ生産国で行われるのは、収穫後すぐに処理しないと豆が傷んでしまうからです。
【農園編①】収穫|カカオポッドを手作業で摘み取る
カカオの実「カカオポッド」とは
カカオの木になる実は「カカオポッド」と呼ばれます。
- ラグビーボールのような楕円形
- 長さ約15〜30cm
- 1つのポッドに30〜50粒のカカオ豆が入っている
- カカオ豆は白い果肉(パルプ)に包まれている

色で見分ける熟度と収穫方法
カカオポッドは、熟すと色が変化します。
- 未熟:緑色
- 完熟:黄色、オレンジ、赤(品種による)
収穫は年に2回、手作業でナタやナイフを使って行われます。機械化が難しいため、今でも熟練した農家の目利きが重要です。
【農園編②】発酵|チョコの香りはここで生まれる
発酵の方法と期間
収穫したカカオポッドを割り、中のカカオ豆を果肉(パルプ)ごと取り出します。
- バナナの葉や木箱で包み、3〜7日間発酵
- 発酵中の温度は最高約50℃まで上昇
- 1〜2日おきにかき混ぜて均一に発酵させる
発酵日数は品種によって異なり、フォラステロ種は6〜7日、クリオロ種は3〜5日が目安です。
発酵の3段階|香りの前駆体が生まれる仕組み
発酵は大きく3つの段階に分かれます。
| 段階 | 期間 | 働き | 生成物 |
|---|---|---|---|
| 初期 | 1〜2日目 | 酵母が糖分を分解(嫌気性発酵) | アルコール |
| 中期 | 2〜4日目 | 酢酸菌がアルコールを分解(好気性発酵) | 酢酸、熱 |
| 後期 | 4〜7日目 | 熱と酸でタンパク質・多糖類が分解 | 香りの前駆体 |
この「香りの前駆体」が、後の焙煎工程でチョコレート特有の香りに変化します。
発酵しないとどうなる?
発酵をスキップすると、チョコレートらしい香りが出ません。
- 豆の色が紫色のまま(チョコレート色にならない)
- 渋みや苦みが強く、風味に深みがない
- 発酵は「美味しいチョコレートの土台」を作る工程
つまり、チョコレートは発酵食品なのです。
【農園編③】乾燥|保存と輸送の準備
天日干しで7〜15日間
発酵が終わったカカオ豆は、天日干しで乾燥させます。
- 乾燥期間:7〜15日間
- 水分を7〜8%以下まで減らす
- パティオ(セメントの台)に広げて天日乾燥
- ビニールハウス内で乾燥させる地域も
均一に乾燥させるため、定期的にトンボのような道具でかき混ぜます。
乾燥の目的と出荷準備
乾燥には3つの目的があります。
- 発酵を止める – これ以上発酵が進むと腐敗する
- カビの発生を防ぐ – 水分が多いとカビが生える
- 保存・輸送に備える – 長期間の船輸送に耐えられるように
乾燥後はカットテストで品質を確認し、麻袋(60〜70kg)に詰めてコンテナ船で輸出されます。
【工場編①】選別・焙煎|香りと風味が決まる
ここからは、チョコレート工場での工程です。
選別|良い豆だけを厳選
輸入されたカカオ豆は、まず選別工程で品質チェックを受けます。
除去されるもの:
- 虫食い豆、カビた豆、発芽した豆
- 小石、小枝、ゴミなどの異物
機械選別と目視選別を組み合わせ、良い豆だけが次の工程に進みます。
焙煎|1000種類以上の香りが生まれる
焙煎(ロースト)は、チョコレートの香りと風味を決定づける重要な工程です。
焙煎の条件:
- 温度:100〜140℃
- 時間:約20〜30分
- 回転式ローストマシンを使用
焙煎方法は主に2種類あります。
| 方法 | 特徴 |
|---|---|
| ビーンズロースト法 | 豆のまま焙煎。香りが維持しやすい |
| ニブロースト法 | 殻を除去後に焙煎。内部まで均一に加熱 |
焙煎によって、発酵で生まれた「香りの前駆体」が1000種類以上の香気成分に変化します。チョコレートの香りは、この工程で決まると言っても過言ではありません。
【工場編②】分離・磨砕|カカオマスの誕生
分離(ウィノーイング)|殻と胚乳を分ける
焙煎したカカオ豆は、粗く砕いて殻(シェル/ハスク)とカカオニブ(胚乳部)に分離します。
ウィノワ装置という機械で風を送り:
- 軽い殻は風で舞い上がる
- 重いカカオニブは下に落ちる
殻が混入すると雑味の原因になるため、完全に分離することが重要です。
磨砕|カカオニブがカカオマスに
カカオニブには約55%のココアバター(油脂)が含まれています。
磨砕機でカカオニブをすり潰すと、摩擦熱でココアバターが溶け出し、ドロドロのペースト状になります。
こうしてできたものが「カカオマス」です。
カカオマスは、チョコレートの原料であると同時に、圧搾するとココアバターとココアパウダーに分けることもできます。
【工場編③】混合・微細化・コンチング|なめらかさの秘密
混合|チョコレートの種類が決まる
カカオマスに、砂糖やココアバターなどを加えて混ぜ合わせます。
チョコレートの種類と配合:
| 種類 | 配合 |
|---|---|
| ダークチョコレート | カカオマス+砂糖+ココアバター |
| ミルクチョコレート | カカオマス+砂糖+ココアバター+粉乳 |
| ホワイトチョコレート | ココアバター+砂糖+粉乳(カカオマスなし) |
この配合の違いが、チョコレートの味と色を決めます。
微細化|20ミクロン以下の細かさ
混合したチョコレートは、ロールリファイナーという機械で粒子を細かくします。
- 目標:20ミクロン以下(1ミクロン=1/1000mm)
- 人間の舌が感知できる粒子は約30ミクロン
- 20ミクロン以下にすることで、舌触りがなめらかに
この工程が不十分だと、ざらついた食感になってしまいます。
コンチング|24時間以上練り続ける
コンチング(精錬)は、チョコレートを長時間練り上げる工程です。
「コンチング」の名前は、昔使われていた貝殻(コンチェ)型の攪拌機に由来します。
コンチングの条件:
- 温度:45〜80℃
- 時間:24時間以上(数日間行うことも)
コンチングの効果:
- 水分を1%以下に蒸発させる
- 酢酸などの不快な揮発成分を飛ばす
- 粒子を均一にコーティングして流動性を高める
- チョコレート独特のなめらかさと風味が完成
コンチングを終えた時点で、チョコレートは約50℃になっています。
【工場編④】テンパリング|最も重要な温度調整
テンパリングとは?なぜ必要?
テンパリング(調温)は、ココアバターの結晶を安定させる温度調整工程です。
チョコレートに含まれるココアバターには、6種類の結晶型があります。その中で最も安定した「V型結晶(ベータ型)」を作ることが、テンパリングの目的です。
| 結晶型 | 融点 | 特徴 |
|---|---|---|
| I型〜IV型 | 17〜28℃ | 不安定 |
| V型 | 33〜34℃ | 安定、艶・口溶け良好 |
| VI型 | 36℃ | 過安定(ブルームの原因) |
V型結晶の融点は33〜34℃。これは人間の体温(約36℃)よりわずかに低い温度です。だからチョコレートは口に入れるとスッと溶けるのです。
テンパリングの温度管理(3段階)
テンパリングは、3段階の温度調整で行います。
| 種類 | ①溶解 | ②冷却 | ③再加熱 |
|---|---|---|---|
| ダーク | 50〜55℃ | 27〜29℃ | 31〜32℃ |
| ミルク | 40〜45℃ | 26〜28℃ | 29〜30℃ |
| ホワイト | 35〜40℃ | 23〜25℃ | 27〜28℃ |
作業環境の条件:
- 室温:18〜23℃
- 湿度:45〜55%
1〜2℃単位の正確な温度管理が求められる、非常に繊細な工程です。

失敗するとどうなる?ブルーム現象
テンパリングに失敗すると、以下の問題が発生します。
- 艶がない見た目
- ざらついた食感
- パキッと割れない(だらっとした折れ方)
- 白い模様が浮き出る「ブルーム現象」
ブルームには、油脂が分離する「ファットブルーム」と、糖分が結晶化する「シュガーブルーム」があります。
【工場編⑤】成型・冷却・熟成|板チョコの完成
充填と冷却
テンパリングを終えたチョコレートは、型(モールド)に流し込まれます。
- 気泡が入らないよう振動を与える
- 隅々まで行き渡らせる
- 冷却トンネルで徐々に冷やす
急激な温度変化はブルームの原因になるため、ゆっくりと冷却します。
熟成(エージング)で風味がまろやかに
型から取り出したチョコレートは、包装後すぐには出荷されません。
- 温度管理された倉庫で熟成(エージング)
- 熟成期間:数日〜数週間
- 熟成により風味がまろやかになる
こうして、ようやく私たちの手元に届くチョコレートが完成します。
Bean to Bar と大量生産の違い
Bean to Barの特徴
「Bean to Bar」とは、カカオ豆(Bean)から板チョコ(Bar)まで自社工房内で一貫して製造するスタイルです。
Bean to Barの特徴:
- 単一農園・単一品種のカカオを使用
- 手作業が多く、小ロット生産
- 焙煎やコンチングを産地ごとに最適化
- 産地の個性を活かしたテロワールを表現
大量生産の特徴
一方、大手メーカーの大量生産は:
- 複数産地のカカオをブレンドして安定品質
- 機械化・自動化された製造ライン
- コストを抑えた効率的な生産
- いつでも同じ味を再現できる
どちらが良い・悪いではなく、目的と楽しみ方が異なるということです。
【図解】12工程まとめ
カカオ豆→板チョコ 全工程と条件
最後に、12の工程をおさらいしましょう。
農園での工程(約2〜3週間):
- 収穫 – カカオポッドを手作業で収穫
- 発酵 – 3〜7日間、最高50℃で香りの前駆体を生成
- 乾燥 – 7〜15日間、水分を7-8%以下に
工場での工程(数日〜数週間):
- 選別 – 不良豆・異物を除去
- 焙煎 – 100〜140℃、20〜30分で香りを引き出す
- 分離 – 殻とカカオニブを分ける
- 磨砕 – カカオニブをすり潰してカカオマスに
- 混合 – 砂糖、ココアバター、粉乳などを配合
- 微細化 – 粒子を20ミクロン以下に
- コンチング – 45〜80℃で24時間以上練り上げ
- テンパリング – 3段階の温度調整で結晶を安定化
- 成型・包装・熟成 – 型に流して固め、熟成して出荷

まとめ|工程を知るとチョコがもっと美味しい
チョコレートができるまでの12工程を解説しました。

ポイントをおさらい:
- チョコレートは約12の工程を経て完成する
- 農園での発酵・乾燥が香りの土台を作る
- 焙煎で1000種類以上の香気成分が生まれる
- コンチングでなめらかさが生まれる
- テンパリングで艶と口溶けが決まる
次にチョコレートを食べるとき、ぜひ各工程を思い浮かべてみてください。カカオ農家やショコラティエの技術の結晶であることを感じると、いつものチョコレートがもっと美味しく感じられるはずです。
Bean to Barショップでは、製造工程へのこだわりを聞きながらチョコレートを選ぶこともできます。ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
参考情報:
- 明治 Hello, Chocolate「チョコレートの作り方」
- 明治 工場見学「チョコレートができるまで」
- 日本チョコレート工業協同組合「チョコレートの製造工程」
- サロンドロワイヤル「チョコレートの作り方は?12の工程を徹底解説」
この記事を書いた人
佐藤 真理子(チョコレートライター)
フリーランスのフードライターとして10年以上活動。Bean to Barチョコレートとの出会いをきっかけに、カカオの世界にのめり込む。国内外のチョコレート専門店への取材経験多数。「難しいことを分かりやすく」をモットーに、チョコレートの魅力を伝える記事を執筆している。
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