お菓子のレシピを見ていると、「カカオマス」「ココアバター」「ココアパウダー」という言葉をよく目にします。どれもチョコレートやお菓子作りに使う材料ですが、それぞれ何がどう違うのか、きちんと説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。
実は、この3つの原材料はすべて「カカオ豆」から作られています。同じカカオ豆から、なぜ異なる材料が生まれるのか。この記事では、製造工程から特徴、お菓子作りでの使い分け方まで、図解を交えてわかりやすく解説します。
この記事を読めば、製菓材料店やスーパーで「どれを買えばいいの?」と迷うことがなくなるはずです。
【図解】カカオ豆から3つの原材料ができるまで
まずは全体像を把握しましょう。カカオマス、ココアバター、ココアパウダーがどのようにして作られるのか、製造工程を見ていきます。
カカオ豆の加工フロー

チョコレートの原料となるカカオ豆は、以下の工程を経て加工されます。
- 発酵・乾燥: 収穫したカカオ豆を発酵させ、天日で乾燥
- 焙煎: 110〜150℃で焙煎し、香りを引き出す
- 粉砕・外皮除去: 焙煎したカカオ豆を粉砕し、外皮(ハスク)を取り除く
- カカオニブ誕生: 外皮を除いた胚乳部分が「カカオニブ」
カカオニブは、いわばカカオ豆の「食べられる部分」です。このカカオニブを細かくすりつぶすと、脂肪分が溶け出してペースト状になります。これが「カカオマス」です。
カカオマスから分かれる2つの道
カカオマスは、さらに2つの原材料へと分かれていきます。
道1: ココアバターへ
カカオマスに強い圧力をかけて、脂肪分だけを搾り取ります。この脂肪分が「ココアバター」です。
道2: ココアパウダーへ
ココアバターを搾り取った後に残る固形分を「ココアケーキ」といいます。このココアケーキを細かく粉砕したものが「ココアパウダー」です。
つまり、カカオマスは「ココアバター」と「ココアパウダー」の両方を含んでいるということ。カカオマスを分離することで、それぞれの原材料が生まれるのです。
カカオマスとは?チョコレートの「色と風味」の源
カカオマスの基本情報
カカオマスとは、カカオニブ(カカオ豆の胚乳部分)をすりつぶしてペースト状にしたものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | カカオリカー、ココアリカー、チョコレートリカー |
| 状態 | 液体(リカー)または固形(マス) |
| 脂肪分 | 約55%(ココアバターを含む) |
| 色 | 濃い茶色 |
「リカー」という名前がついていますが、お酒は入っていません。英語の「liquor(液体)」に由来する名称で、すりつぶした直後の液状の状態を指しています。これを冷却して固形にしたものが「カカオマス」と呼ばれます。
カカオマスの役割
カカオマスは、チョコレートにおいて非常に重要な役割を果たしています。
- 色の源: チョコレートの茶色い色は、カカオマスに由来します。ホワイトチョコレートが白いのは、カカオマスを使用していないからです。
- 風味の源: カカオ本来の苦味、深いコク、複雑な香りはすべてカカオマスから生まれます。
- 健康成分の宝庫: カカオポリフェノール、食物繊維、ミネラルなど、健康効果が期待される成分を多く含んでいます。
チョコレートの種類とカカオマス
チョコレートの種類によって、カカオマスの使用量は大きく異なります。
| チョコレートの種類 | カカオマス使用量 |
|---|---|
| ダークチョコレート | 40〜60%以上 |
| ミルクチョコレート | 20〜40% |
| ホワイトチョコレート | 使用しない |
ホワイトチョコレートが「チョコレートと呼べるのか問題」は、ここに関係しています。カカオマスを使わないホワイトチョコレートは、カカオ豆由来の成分としてはココアバターのみを使用しているのです。
ココアバターとは?口溶けの秘密は「34℃」
ココアバターの基本情報
ココアバターとは、カカオマスから圧搾抽出した脂肪分のことです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | カカオバター、カカオ脂 |
| 色 | 淡黄色〜クリーム色 |
| 状態 | 常温で固体、34℃以上で液体 |
| 含有率 | カカオ豆の40〜50%、カカオマスの約55% |
ココアバターは、カカオ豆に含まれる脂肪分だけを取り出したもの。味はほとんどなく、ほのかにカカオの香りがする程度です。
体温で溶ける唯一の植物油脂
ココアバターの最大の特徴は、その融点が約34℃であること。これは人間の体温(約36〜37℃)よりもわずかに低い温度です。
この性質により、チョコレートを口に入れると、一瞬で溶けて広がる「あの口溶け」が生まれます。この現象は「シャープメルティング」と呼ばれ、この性質を持つ植物油脂はココアバターだけと言われています。
チョコレートが「常温では固体なのに、口に入れると溶ける」という絶妙な性質は、すべてココアバターのおかげなのです。
ココアバターの脂肪酸組成
ココアバターは以下の脂肪酸で構成されています。
| 脂肪酸 | 種類 | 含有率 |
|---|---|---|
| パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | 約25% |
| ステアリン酸 | 飽和脂肪酸 | 約35% |
| オレイン酸 | 不飽和脂肪酸 | 約35% |
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がバランスよく含まれており、酸化しにくく安定性が高いのも特徴です。適切に保存すれば2〜5年は品質を保つことができます。
お菓子以外の意外な用途
ココアバターは、お菓子以外にも幅広く使われています。
- 化粧品: 口紅、リップクリーム、保湿クリーム、ボディローションなど。体温で溶ける性質と保湿効果が活かされています。
- 医薬品: 座薬の基材や軟膏に使用されます。体温で溶けて有効成分を放出する性質が利用されています。
ココアバターには「エモリエント効果」(皮膚の水分蒸発を抑える効果)があり、乾燥肌対策としても優秀な成分なのです。
ココアパウダーとは?お菓子作りの万能選手
ココアパウダーの基本情報
ココアパウダーとは、カカオマスからココアバター(脂肪分)を搾り取った後の固形分を粉末にしたものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 別名 | 純ココア、ピュアココア、カカオパウダー |
| 色 | 赤褐色〜濃褐色 |
| 脂肪分 | 10〜24%(製品により異なる) |
| 状態 | 粉末 |
「ココアパウダー」「純ココア」「ピュアココア」「カカオパウダー」は、すべて同じものを指します。販売するメーカーによって呼び方が異なるだけです。
ハイファット vs ローファット
ココアパウダーは、残っている脂肪分の量によって種類が分かれます。
| 種類 | 脂肪分 | 特徴 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|
| ハイファット | 20〜24% | 風味豊か、しっとり | 焼き菓子、生地に練り込む |
| ミディアムファット | 10〜20% | 一般的 | 万能 |
| ローファット | 10%以下 | さっぱり、軽い | 飲料、トッピング |
お菓子作りで「濃厚なチョコレート感」を出したいなら、ハイファットタイプがおすすめです。
ダッチプロセス(アルカリ処理)とは
ココアパウダーには「アルカリ処理」されたものと、されていないものがあります。
ダッチプロセス(アルカリ処理)とは、19世紀にオランダ人のバンホーテンが発明した製法です。カカオの酸性を中和するためにアルカリ剤を加える処理のことで、以下の効果があります。
| 項目 | アルカリ処理あり | アルカリ処理なし |
|---|---|---|
| 色 | 濃い茶色〜黒 | 明るい赤褐色 |
| 味 | マイルド、まろやか | 酸味・苦味が強い |
| 溶けやすさ | 溶けやすい | やや溶けにくい |
| ポリフェノール | やや減少 | 多く残る |
市販のココアパウダーの多くは、アルカリ処理されたものです。飲みやすさと扱いやすさを重視するなら「ダッチプロセス」、栄養価や素材本来の風味を重視するなら「ナチュラルココア(非アルカリ処理)」を選ぶとよいでしょう。
【比較表】3つの原材料を一目で理解
ここまでの内容を整理して、3つの原材料を比較してみましょう。

| 項目 | カカオマス | ココアバター | ココアパウダー |
|---|---|---|---|
| 原料 | カカオニブ | カカオマス | カカオマス |
| 状態 | ペースト/固形 | 固形(常温)/液体(34℃+) | 粉末 |
| 色 | 濃い茶色 | 淡黄色 | 赤褐色 |
| 脂肪分 | 約55% | 100% | 10〜24% |
| 味 | 強い苦味 | ほぼ無味 | 苦味・酸味 |
| チョコでの役割 | 色・風味 | 口溶け・艶 | 香り・色 |
覚え方のポイント
- カカオマス = ココアバター + ココアパウダーの「両方を含む」元の形
- ココアバター = 脂肪分だけ(だから「バター」)
- ココアパウダー = 脂肪を取り除いた固形分(だから「パウダー」)
純ココアと調整ココア(ミルクココア)の違い
ココアパウダーの話をしたついでに、よくある疑問「純ココアと調整ココアの違い」についても解説しておきましょう。
純ココアとは
純ココアは、ココアパウダー100%の製品です。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| ココア成分 | 100% |
| ココアバター | 全重量の22%以上 |
| 水分 | 7%以下 |
| 添加物 | バニラ系香料以外は不可 |
砂糖や乳製品は一切入っていません。そのため、そのまま飲むと苦いですが、お菓子作りには最適です。自分で甘さを調整できるので、レシピ通りに作りたいときは純ココアを選びましょう。
調整ココアとは
調整ココアは、純ココアに砂糖や脱脂粉乳などを加えて飲みやすくした製品です。「ミルクココア」「インスタントココア」とも呼ばれます。
主な成分:
- 砂糖(最も多い)
- 脱脂粉乳(スキムミルク)
- ココアパウダー
- 香料 など
お湯や牛乳を注ぐだけで、すぐに美味しいココアが楽しめます。
比較と使い分け
| 項目 | 純ココア | 調整ココア |
|---|---|---|
| 糖分 | なし | あり(多い) |
| カロリー(1杯) | 約50kcal | 約80〜100kcal |
| お菓子作り | ◎ 最適 | △ 甘くなりすぎる |
| そのまま飲む | △ 砂糖が必要 | ◎ そのまま可 |
| 健康志向 | ◎ | △ |
代用はできる?
純ココア → 調整ココアの代用: 可能です。純ココアに砂糖とスキムミルクを加えれば、調整ココアに近い味になります。
目安: 純ココア5g + 砂糖10g + スキムミルク5g
調整ココア → 純ココアの代用: 不可です。すでに砂糖が入っているため、お菓子作りに使うと甘くなりすぎてしまいます。
お菓子作りでの使い分けガイド
3つの原材料、それぞれどんなお菓子作りに向いているのでしょうか。実践的な使い分けを見ていきましょう。

カカオマスを使うレシピ
カカオマスは「チョコレートそのもの」に近い原材料です。
向いているお菓子:
- 本格的なチョコレート作り(テンパリングして)
- ガトーショコラ(濃厚タイプ)
- トリュフのガナッシュ
- 生チョコレート
カカオマスを使うと、カカオ感の強い本格的な味わいになります。ただし、テンパリング(温度調整)が必要になる場合もあるため、中〜上級者向けの材料といえます。
ココアバターを使うレシピ
ココアバターは「口溶け」と「艶」を出すための材料です。
向いているお菓子:
- チョコレートの艶出し・コーティング
- ホワイトチョコレート作り
- チョコレートをなめらかにしたいとき
- ボンボンショコラの薄いシェル作り
クーベルチュールチョコレートにココアバターを加えると、より流動性が増してコーティングしやすくなります。
ココアパウダーを使うレシピ
ココアパウダーは最も汎用性の高い「万能選手」です。
向いているお菓子:
- ココアクッキー、ブラウニー
- ガトーショコラ(生地に練り込む)
- チョコレートケーキ
- トリュフの仕上げ(まぶす)
- ホットチョコレート、ココアドリンク
- アイシングやデコレーション
ココアパウダーは扱いやすく、初心者でも失敗しにくい材料です。まずはココアパウダーから始めて、慣れてきたらカカオマスに挑戦するのがおすすめです。
どこで買える?購入場所ガイド
最後に、それぞれの原材料をどこで購入できるかをまとめておきます。
カカオマス
- 製菓材料専門店: 富澤商店、cotta、cuoca
- ネット通販: Amazon、楽天市場
- 注意点: スーパーではほとんど売っていない
ココアバター
- 製菓材料専門店: 富澤商店、cotta
- ネット通販: Amazon、楽天市場
- 注意点: 食用と化粧品用があるので、食用を選ぶこと
ココアパウダー(純ココア)
- スーパー: 製菓材料コーナー
- 製菓材料専門店: 富澤商店、cotta
- ネット通販: Amazon、楽天市場
- ポイント: 「純ココア」「ピュアココア」表記のものを選ぶ
初心者の方は、まずスーパーで手に入る「純ココア」から始めてみてください。バンホーテンや森永の純ココアは、スーパーの製菓材料コーナーで見つけやすいです。
まとめ
カカオマス、ココアバター、ココアパウダーの違いを整理しましょう。
すべてはカカオ豆から始まる
- カカオ豆 → カカオニブ → カカオマス
- カカオマス → 脂肪分を抽出 → ココアバター
- カカオマス → 脂肪分を除いて粉末化 → ココアパウダー
それぞれの役割
- カカオマス = チョコレートの「色」と「風味」の源
- ココアバター = 「口溶け」と「艶」の正体
- ココアパウダー = 「香り」と「手軽さ」の万能選手
お菓子作りでの使い分け
- 本格的なチョコを作りたい → カカオマス
- 艶やなめらかさを出したい → ココアバター
- 手軽にチョコ風味を加えたい → ココアパウダー
これらの違いを理解しておけば、レシピを見たときに「なぜこの材料を使うのか」がわかるようになります。お菓子作りの「なんとなく」を「わかって作る」に変えて、より美味しいチョコレート菓子を楽しんでください。
参考文献
- 明治 Hello Chocolate「カカオマスとはカカオニブをすりつぶしたもの」
- 富澤商店「ココアパウダーとは?徹底比較」
- バンホーテン公式サイト「バンホーテンの歴史」
- ダンデライオンチョコレート「チョコレートの原材料とは?」
この記事を書いた人: 佐藤 真理子(チョコレートライター)
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