お菓子のレシピを見ていると、「カカオマス」「ココアバター」「ココアパウダー」という言葉をよく目にします。どれもチョコレートやお菓子作りに使う材料ですが、それぞれ何がどう違うのか、きちんと説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。

実は、この3つの原材料はすべて「カカオ豆」から作られています。同じカカオ豆から、なぜ異なる材料が生まれるのか。この記事では、製造工程から特徴、お菓子作りでの使い分け方まで、図解を交えてわかりやすく解説します。

この記事を読めば、製菓材料店やスーパーで「どれを買えばいいの?」と迷うことがなくなるはずです。

【図解】カカオ豆から3つの原材料ができるまで

まずは全体像を把握しましょう。カカオマス、ココアバター、ココアパウダーがどのようにして作られるのか、製造工程を見ていきます。

カカオ豆の加工フロー

022 root

チョコレートの原料となるカカオ豆は、以下の工程を経て加工されます。

  1. 発酵・乾燥: 収穫したカカオ豆を発酵させ、天日で乾燥
  2. 焙煎: 110〜150℃で焙煎し、香りを引き出す
  3. 粉砕・外皮除去: 焙煎したカカオ豆を粉砕し、外皮(ハスク)を取り除く
  4. カカオニブ誕生: 外皮を除いた胚乳部分が「カカオニブ」

カカオニブは、いわばカカオ豆の「食べられる部分」です。このカカオニブを細かくすりつぶすと、脂肪分が溶け出してペースト状になります。これが「カカオマス」です。

カカオマスから分かれる2つの道

カカオマスは、さらに2つの原材料へと分かれていきます。

道1: ココアバターへ
カカオマスに強い圧力をかけて、脂肪分だけを搾り取ります。この脂肪分が「ココアバター」です。

道2: ココアパウダーへ
ココアバターを搾り取った後に残る固形分を「ココアケーキ」といいます。このココアケーキを細かく粉砕したものが「ココアパウダー」です。

つまり、カカオマスは「ココアバター」と「ココアパウダー」の両方を含んでいるということ。カカオマスを分離することで、それぞれの原材料が生まれるのです。

カカオマスとは?チョコレートの「色と風味」の源

カカオマスの基本情報

カカオマスとは、カカオニブ(カカオ豆の胚乳部分)をすりつぶしてペースト状にしたものです。

項目内容
別名カカオリカー、ココアリカー、チョコレートリカー
状態液体(リカー)または固形(マス)
脂肪分約55%(ココアバターを含む)
濃い茶色

「リカー」という名前がついていますが、お酒は入っていません。英語の「liquor(液体)」に由来する名称で、すりつぶした直後の液状の状態を指しています。これを冷却して固形にしたものが「カカオマス」と呼ばれます。

カカオマスの役割

カカオマスは、チョコレートにおいて非常に重要な役割を果たしています。

  • 色の源: チョコレートの茶色い色は、カカオマスに由来します。ホワイトチョコレートが白いのは、カカオマスを使用していないからです。
  • 風味の源: カカオ本来の苦味、深いコク、複雑な香りはすべてカカオマスから生まれます。
  • 健康成分の宝庫: カカオポリフェノール、食物繊維、ミネラルなど、健康効果が期待される成分を多く含んでいます。

チョコレートの種類とカカオマス

チョコレートの種類によって、カカオマスの使用量は大きく異なります。

チョコレートの種類カカオマス使用量
ダークチョコレート40〜60%以上
ミルクチョコレート20〜40%
ホワイトチョコレート使用しない

ホワイトチョコレートが「チョコレートと呼べるのか問題」は、ここに関係しています。カカオマスを使わないホワイトチョコレートは、カカオ豆由来の成分としてはココアバターのみを使用しているのです。

ココアバターとは?口溶けの秘密は「34℃」

ココアバターの基本情報

ココアバターとは、カカオマスから圧搾抽出した脂肪分のことです。

項目内容
別名カカオバター、カカオ脂
淡黄色〜クリーム色
状態常温で固体、34℃以上で液体
含有率カカオ豆の40〜50%、カカオマスの約55%

ココアバターは、カカオ豆に含まれる脂肪分だけを取り出したもの。味はほとんどなく、ほのかにカカオの香りがする程度です。

体温で溶ける唯一の植物油脂

ココアバターの最大の特徴は、その融点が約34℃であること。これは人間の体温(約36〜37℃)よりもわずかに低い温度です。

この性質により、チョコレートを口に入れると、一瞬で溶けて広がる「あの口溶け」が生まれます。この現象は「シャープメルティング」と呼ばれ、この性質を持つ植物油脂はココアバターだけと言われています。

チョコレートが「常温では固体なのに、口に入れると溶ける」という絶妙な性質は、すべてココアバターのおかげなのです。

ココアバターの脂肪酸組成

ココアバターは以下の脂肪酸で構成されています。

脂肪酸種類含有率
パルミチン酸飽和脂肪酸約25%
ステアリン酸飽和脂肪酸約35%
オレイン酸不飽和脂肪酸約35%

飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がバランスよく含まれており、酸化しにくく安定性が高いのも特徴です。適切に保存すれば2〜5年は品質を保つことができます。

お菓子以外の意外な用途

ココアバターは、お菓子以外にも幅広く使われています。

  • 化粧品: 口紅、リップクリーム、保湿クリーム、ボディローションなど。体温で溶ける性質と保湿効果が活かされています。
  • 医薬品: 座薬の基材や軟膏に使用されます。体温で溶けて有効成分を放出する性質が利用されています。

ココアバターには「エモリエント効果」(皮膚の水分蒸発を抑える効果)があり、乾燥肌対策としても優秀な成分なのです。

ココアパウダーとは?お菓子作りの万能選手

ココアパウダーの基本情報

ココアパウダーとは、カカオマスからココアバター(脂肪分)を搾り取った後の固形分を粉末にしたものです。

項目内容
別名純ココア、ピュアココア、カカオパウダー
赤褐色〜濃褐色
脂肪分10〜24%(製品により異なる)
状態粉末

「ココアパウダー」「純ココア」「ピュアココア」「カカオパウダー」は、すべて同じものを指します。販売するメーカーによって呼び方が異なるだけです。

ハイファット vs ローファット

ココアパウダーは、残っている脂肪分の量によって種類が分かれます。

種類脂肪分特徴向いている用途
ハイファット20〜24%風味豊か、しっとり焼き菓子、生地に練り込む
ミディアムファット10〜20%一般的万能
ローファット10%以下さっぱり、軽い飲料、トッピング

お菓子作りで「濃厚なチョコレート感」を出したいなら、ハイファットタイプがおすすめです。

ダッチプロセス(アルカリ処理)とは

ココアパウダーには「アルカリ処理」されたものと、されていないものがあります。

ダッチプロセス(アルカリ処理)とは、19世紀にオランダ人のバンホーテンが発明した製法です。カカオの酸性を中和するためにアルカリ剤を加える処理のことで、以下の効果があります。

項目アルカリ処理ありアルカリ処理なし
濃い茶色〜黒明るい赤褐色
マイルド、まろやか酸味・苦味が強い
溶けやすさ溶けやすいやや溶けにくい
ポリフェノールやや減少多く残る

市販のココアパウダーの多くは、アルカリ処理されたものです。飲みやすさと扱いやすさを重視するなら「ダッチプロセス」、栄養価や素材本来の風味を重視するなら「ナチュラルココア(非アルカリ処理)」を選ぶとよいでしょう。

【比較表】3つの原材料を一目で理解

ここまでの内容を整理して、3つの原材料を比較してみましょう。

022 Type
項目カカオマスココアバターココアパウダー
原料カカオニブカカオマスカカオマス
状態ペースト/固形固形(常温)/液体(34℃+)粉末
濃い茶色淡黄色赤褐色
脂肪分約55%100%10〜24%
強い苦味ほぼ無味苦味・酸味
チョコでの役割色・風味口溶け・艶香り・色

覚え方のポイント

  • カカオマス = ココアバター + ココアパウダーの「両方を含む」元の形
  • ココアバター = 脂肪分だけ(だから「バター」)
  • ココアパウダー = 脂肪を取り除いた固形分(だから「パウダー」)

純ココアと調整ココア(ミルクココア)の違い

ココアパウダーの話をしたついでに、よくある疑問「純ココアと調整ココアの違い」についても解説しておきましょう。

純ココアとは

純ココアは、ココアパウダー100%の製品です。

項目基準
ココア成分100%
ココアバター全重量の22%以上
水分7%以下
添加物バニラ系香料以外は不可

砂糖や乳製品は一切入っていません。そのため、そのまま飲むと苦いですが、お菓子作りには最適です。自分で甘さを調整できるので、レシピ通りに作りたいときは純ココアを選びましょう。

調整ココアとは

調整ココアは、純ココアに砂糖や脱脂粉乳などを加えて飲みやすくした製品です。「ミルクココア」「インスタントココア」とも呼ばれます。

主な成分:

  • 砂糖(最も多い)
  • 脱脂粉乳(スキムミルク)
  • ココアパウダー
  • 香料 など

お湯や牛乳を注ぐだけで、すぐに美味しいココアが楽しめます。

比較と使い分け

項目純ココア調整ココア
糖分なしあり(多い)
カロリー(1杯)約50kcal約80〜100kcal
お菓子作り◎ 最適△ 甘くなりすぎる
そのまま飲む△ 砂糖が必要◎ そのまま可
健康志向

代用はできる?

純ココア → 調整ココアの代用: 可能です。純ココアに砂糖とスキムミルクを加えれば、調整ココアに近い味になります。

目安: 純ココア5g + 砂糖10g + スキムミルク5g

調整ココア → 純ココアの代用: 不可です。すでに砂糖が入っているため、お菓子作りに使うと甘くなりすぎてしまいます。

お菓子作りでの使い分けガイド

3つの原材料、それぞれどんなお菓子作りに向いているのでしょうか。実践的な使い分けを見ていきましょう。

022 how to use

カカオマスを使うレシピ

カカオマスは「チョコレートそのもの」に近い原材料です。

向いているお菓子:

  • 本格的なチョコレート作り(テンパリングして)
  • ガトーショコラ(濃厚タイプ)
  • トリュフのガナッシュ
  • 生チョコレート

カカオマスを使うと、カカオ感の強い本格的な味わいになります。ただし、テンパリング(温度調整)が必要になる場合もあるため、中〜上級者向けの材料といえます。

ココアバターを使うレシピ

ココアバターは「口溶け」と「艶」を出すための材料です。

向いているお菓子:

  • チョコレートの艶出し・コーティング
  • ホワイトチョコレート作り
  • チョコレートをなめらかにしたいとき
  • ボンボンショコラの薄いシェル作り

クーベルチュールチョコレートにココアバターを加えると、より流動性が増してコーティングしやすくなります。

ココアパウダーを使うレシピ

ココアパウダーは最も汎用性の高い「万能選手」です。

向いているお菓子:

  • ココアクッキー、ブラウニー
  • ガトーショコラ(生地に練り込む)
  • チョコレートケーキ
  • トリュフの仕上げ(まぶす)
  • ホットチョコレート、ココアドリンク
  • アイシングやデコレーション

ココアパウダーは扱いやすく、初心者でも失敗しにくい材料です。まずはココアパウダーから始めて、慣れてきたらカカオマスに挑戦するのがおすすめです。

どこで買える?購入場所ガイド

最後に、それぞれの原材料をどこで購入できるかをまとめておきます。

カカオマス

  • 製菓材料専門店: 富澤商店、cotta、cuoca
  • ネット通販: Amazon、楽天市場
  • 注意点: スーパーではほとんど売っていない

ココアバター

  • 製菓材料専門店: 富澤商店、cotta
  • ネット通販: Amazon、楽天市場
  • 注意点: 食用と化粧品用があるので、食用を選ぶこと

ココアパウダー(純ココア)

  • スーパー: 製菓材料コーナー
  • 製菓材料専門店: 富澤商店、cotta
  • ネット通販: Amazon、楽天市場
  • ポイント: 「純ココア」「ピュアココア」表記のものを選ぶ

初心者の方は、まずスーパーで手に入る「純ココア」から始めてみてください。バンホーテンや森永の純ココアは、スーパーの製菓材料コーナーで見つけやすいです。

まとめ

カカオマス、ココアバター、ココアパウダーの違いを整理しましょう。

すべてはカカオ豆から始まる

  • カカオ豆 → カカオニブ → カカオマス
  • カカオマス → 脂肪分を抽出 → ココアバター
  • カカオマス → 脂肪分を除いて粉末化 → ココアパウダー

それぞれの役割

  • カカオマス = チョコレートの「色」と「風味」の源
  • ココアバター = 「口溶け」と「艶」の正体
  • ココアパウダー = 「香り」と「手軽さ」の万能選手

お菓子作りでの使い分け

  • 本格的なチョコを作りたい → カカオマス
  • 艶やなめらかさを出したい → ココアバター
  • 手軽にチョコ風味を加えたい → ココアパウダー

これらの違いを理解しておけば、レシピを見たときに「なぜこの材料を使うのか」がわかるようになります。お菓子作りの「なんとなく」を「わかって作る」に変えて、より美味しいチョコレート菓子を楽しんでください。

参考文献

この記事を書いた人: 佐藤 真理子(チョコレートライター)

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